チケット不正転売禁止法 2019




チケットの不正転売が禁止されます!

1 ライブやコンサート、スポーツ観戦に行こうと思って、チケットを買おうとしたら早々に売り切れてしまっていた。それなのに、そのチケットを検索したら、オークションサイトやフリマサイトで定価よりもはるかに高い金額で出品されていた…こんなご経験をされたことはありませんか?

皆さんもご存知のとおり、このような転売行為によって生まれる利益、つまり、転売価格と定価との差額は、転売屋(最近では転売ヤーとも。)の利益にしかならず、実際にライブやイベントを提供する出演者やスタッフには何の利益ももたらしません。
それでも、どうしてもそのライブやイベントに行きたいと思っている人は、転売チケットをつい求めてしまう、という状況が、特にインターネット上で散見されます。

2 これまで、チケットの転売行為については、いわゆるダフ屋行為というものについては、各都道府県の迷惑防止条例や古物営業法等で取り締まりがなされてきました。ダフ屋行為とは、ライブやスポーツ、映画等のチケットについて、転売する目的で購入したり、公衆に転売したりすることをいいます。

しかし、これらの取締対象は、主に「公共の場所」または「公共の乗物」での転売行為であり、しかも転売者がそのチケットを購入した際に、「転売する目的」を持っていることが立証されなければならない、という厳格なものでした。
現在、インターネットで誰でも物を売買できるようになりましたが、インターネットの売買サイトは、「公共の場所」または「公共の乗物」に該当しません。そのため、これまでは、ネット上の転売行為を取り締まることができなかったわけです。

また、興行主の側で、不当な転売を防ぐために、特定の人しか開けない電子チケットを発行するなどの工夫がなされるケースも最近ではよく見られます。しかし、このような転売防止のシステム構築には低くないコストがかかりますし、また一方で、購入後に当日の都合がつかなくなった人が、そのチケットを誰かに譲渡する機会が失われたりと、興行主の負担も大きく、従前の条例・法規制だけでは限界がありました。

3 そこで、ネット上でのチケットの高額転売等を禁止するため、いわゆる「チケット不正転売禁止法」が制定され、令和元年6月14日から施行されました。
正式名は、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」です。

1 対象となるチケット:「特定興行入場券」(法2条3項)

 

まずは、この定義にふれておきます。
特定興行入場券とは、興行入場券(それを提示することにより興行を行う場所に入場することができる証票(チケット))であって、不特定又は多数の者に販売され、かつ、
①興行主等が、販売時に、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、かつ、その旨を当該入場券の券面等に表示し
②興行が行われる特定の日時及び場所並びに入場資格者又は座席が指定され
③興行主等が、販売時に、入場資格者又は購入者の氏名及び連絡先を確認する措置を講じ、かつ、その旨を当該入場券の券面等に表示しているもの

です。

※QRコードやICカードを入場券とする場合を含む。
※対象外:・招待券などの無料で配布されたチケット
・①の記載のないチケット
・販売時に購入者の氏名等の確認が行われていないチケット
・日時の指定のないチケット

2 禁止される行為

・不正転売の禁止(法3条)
「何人も、特定興行入場券の不正転売をしてはならない」
・不正転売目的の譲受けの禁止(法4条)
「何人も、特定興行入場券の不正転売を目的として特定興行入場券を譲り受けてはならない」

「特定興行入場券の不正転売」とは(法2条4項)
興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするもの

「業として行う」とは、「反復継続(何度も繰り返す)の意思をもって行う」ことをいいます。ですので、それを“なりわい”としている必要はなく、個人であっても規制対象となり得ます。

3 違反したときの罰則(法9条)

 

1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはその両方が科される

4 興行主が気をつけるべきこと

・法の保護対象になるどうか、システムの見直し
・販売時に、購入者等の氏名と連絡先を確認措置が講じられているか
・チケットの書式・記載事項
・入場時の本人確認(努力義務)
・適正な流通が確保されるよう措置を講じる(努力義務)
例)行けなくなった人のチケットを、行きたい人に譲るシステムの構築

5 消費者が気をつけるべきこと

非正規ルートを用いたり、定価より高い金額で販売されているチケットを購入したりすることのないようにしましょう。仮に、そのような方法でチケットを購入しても、入場できなかったり、公演中止等の補償を受けられない可能性があるほか、そもそもチケットが届かない、といった詐欺被害を受けるリスクがあります。

巻き込まれないようにするために、

<買う側>

・正規のルートで買うこと
公式の販売サイトや、興行主から許可を得ているリセールサイトを利用しましょう。
・チケットの定価や、利用条件を確認すること
転売チケットを購入した場合にどうなるか(入場はできるのか、イベント中止の補償は あるのか等)確認しておくことが望ましいでしょう。

<売る側>

・正規のルートで売ること
・リセールサイトが設けられていない場合
チケットの定価から逸脱しないこと、繰り返し行わないこと

著者プロフィール


井上瑛子 弁護士

おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属