医師・歯科医師の行政処分について~犯罪などが医師・歯科医師資格に及ぼす影響

こんにちは弁護士の奥田です。
今日は、医師・歯科医師の行政処分について、”医師・歯科医師の犯罪などが医師・歯科医師資格に及ぼす影響”ということを説明していきたいと思います。

まず医師法・歯科医師法には、医師・歯科医師が「罰金以上の刑に処せられた」とき、あるいは「医事に関し犯罪または不正の行為」があったとき、あるいは「医師としての品位を損するような行為」があったとき、この場合には次のA・B・Cいずれかの行政処分がなされうるということが規定されています。
まず、A・戒告、次にB・3年以内の医業停止、それから一番重いものでC・免許の取り消し。この3種類の行政処分がなされうるということが規定されています。

まず、「罰金以上の刑に処せられた」というのはどういうことか説明します。
これは、刑事裁判(いわゆる”略式裁判”、”略式請求”も含みます)で、罰金あるいは禁錮、懲役などの刑が言い渡されて確定したということを指します。この場合、執行猶予付きでも、この「罰金以上の刑に処せられた」ということになります。
ただし、不起訴処分(「起訴猶予処分」も不起訴です)の場合には、この罰金以上の刑に処せられたというところには当たりませんので、そこに注意が必要です。

次に、「医事に関し犯罪または不正の行為」があったとき。
典型例は”診療報酬不正請求”という健康保険制度における不正の請求ですね。健康保険に対して、例えばやってもいない診療についての報酬を請求した、こういった場合が典型例です。それから近年指定医資格の不正取得というこういう類型でも、医事に関し不正の行為があったということで行政処分がなされたという例があります。
それから最後に、「医師としての品位を損するような行為」というのも規定されています。しかし実例はあまりないように思います。古い厚生省の行政通達によれば、応召義務違反、医師法19条・歯科医師法19条の応召義務違反ですね。診察治療の求めがあった場合に正当な理由がなければこれを拒んではならないと規定されている、この応召義務違反があったときには、これに当たりうるんだといったような見解が示されたことがあります。
ただ実例としてはこの「医師としての品位を損するような行為」ということで行政処分がなされたという例は極めて少ないと思われます。

その場合の行政処分の種類ですね。これは、A・戒告、B・3年以内の医業停止、C・免許取り消し、という三つがあります。
まず「戒告」です。戒告というのは読んで字のごとく戒めを告げるということですので、”怒られる”と簡単に言えばそういうことになりますけれども、医業の継続というのは可能です。医師・歯科医師として引き続き働いていくということは可能です。ただし、再教育研修という一定の研修を受けないといけないということになっています。
次に「3年以内の医業停止」。これは最長3年ということで期間が定められます。例えば3ヶ月とか、あるいは2年とか2年6ヶ月というものもあります。まずそういうふうな形で期間が定められるということになります。それから、診療報酬不正請求では、額に関係なく一定の処分をするんだといったような見解が示されています。これは厚生労働省の諮問機関である医道審議会というところで、こういった診療報酬不正請求では額に関係なく一定の処分をするんだといったような方針が示されているところです。ですのでこの診療報酬不正請求ではこの一定の処分は大体3ヶ月ということになってるんじゃないかというふうに言われています。
ただ、この診療報酬不正請求を行ってしまった場合には、別途『保険医取り消し』というものがあります。この医師・歯科医師としての医業資格の停止は、3ヶ月であったとしても健康保険を使った診療をする資格が取り消されてしまう。そうすると5年間は再登録とかそういうことができませんので、5年間は健康保険を使った診療に当たれないということになります。ここに注意が必要です。
それからこの医業停止の場合も再教育研修というのがあります。

それから最後、「免許取り消し」。これは滅多にというか、なかなか免許取り消しという処分が下される例は極めて少ないという、運用上そうなっています。
もちろん殺人・放火といったような場合には、この免許取り消しということがされますけれども、いわゆる重罪ではなくても、患者さんへのわいせつ行為、これは一発で免許取り消しということになる傾向にあります。
患者さんは医師・歯科医師を診療行為だと信頼して自分の身を預けているわけですから、この信頼を裏切ってわいせつ行為をしたということは非常に重い処分、免許取り消しの理由になるといったようなことで、この患者さんへのわいせつ行為というのは免許取り消しになる可能性が高いということが言えるかと思います。

これまで見てきたように、戒告になるのか、医業停止になるのか。この医業停止も例えば3ヶ月で済むのか、1年なのか2年半なのか3年なのかとかですね。それから免許取り消しになるのかというのは、もちろん先ほど申し上げたような、その犯罪の類型とかにもよりますけれども、基本的にはこの刑事処分の結果ですね。不起訴になったのか、あるいは有罪になったのか、有罪でも執行猶予がついたのか、実刑になったのかという刑事処分の結果によるところが大です。
最終的には厚生労働大臣が処分を下すわけですけれども、厚生労働大臣は医道審議会というところの諮問機関の意見・答申を聞いて処分をするということになっていますが、厚生労働大臣あるいは医道審議会の方で独自に調査するということは基本的にはありません。
基本的にはこの刑事処分の結果を見て判断を下すということになっていますので、この刑事処分の結果というのが行政処分の結果にも非常に大きく影響してくるということになります。従って、この刑事処分が終了した後に行政処分の手続きが始まる。これは時間的な問題なんですけれども、例えば、酒酔い運転で危険運転致死罪とかで刑事裁判になって、例えば懲役に行って帰ってきた後に、この行政処分の手続きが始まるということになります。ですので刑事処分によって、例えば実刑判決で1年間服役しました、その間にもう行政処分があって医業停止1年とか2年とかっていうふうにしてくれれば、医師・歯科医師にとっては服役中に行政処分が終わるということになるんですけれども、しかしこれは刑事処分で罰を受け終わった後にこの行政処分が始まるということになりますので、そこも少し頭に入れておく必要があるかもしれません。
ですのでこの医師・歯科医師が犯罪を犯してしまった、例えば運転していて事故を起こしたりとか、お酒によって暴力を振るってしまったといったような場合でも、この医師・歯科医師の場合には一般人と違って、医師・歯科医師資格に影響がありうると、この行政処分ということを当初から視野に入れて早期の対応をすべきだというふうに思います。ですのでこういったような場合にはなるべく早く専門の弁護士などにご相談をされて行政処分を視野に入れて対応されるということがいいと考えます。
今日のお話は以上です。

 

著者プロフィール


奥田貫介 弁護士

おくだ総合法律事務所 所長
司法修習50期 福岡県弁護士会所属
福岡県立修猷館高校卒
京都大学法学部卒