パワハラ・コロナ-ハラスメントの防止のために、 事業主が取るべき事後対策、4つのポイント 【新型コロナウイルス感染症対策】 「パワハラ防止法」に見るコロナ-ハラスメント対策③
Table of Contents
1 はじめに―前回のおさらい
この動画は、「『パワハラ防止法』に見るコロナ-ハラスメント対策」というタイトルでお送りしているシリーズの3本目ということになります。
シリーズの中でこの動画を最初にご覧になっている方は、よろしければ1本目の動画からご参照いただけたら嬉しいです。
前回の動画では、
■パワハラ・コロハラの事前対策・予防策
について、①社内方針の明確化/②社内方針の周知・啓発/③探知の仕組みの確立という3つのキホンをおさえて解説しました。
このように前回は、パワハラ・コロハラの問題が生じる“前”のお話でしたが、ここからは、“後”ということで、いざ「パワハラを受けた!」「これってコロナハラスメントではありませんか?」という申告が社内であった場合に、会社としてどういう対応をしていけばよいのか、事実確認・調査の必要性と、4つのポイントをご説明したいと思います。
~中小企業経営者の方へ~
パワハラ防止法は、令和元年5月に成立し、令和2年6月から大企業が、令和4年4月から中小企業が、その適用を受けることになります。
そのため、特に中小企業の経営・管理を行う立場の方におかれては、今後パワハラ防止法の適用対象となるにあたり、予習としてもご覧いただけたらと考えています。
2 事実確認・調査の必要性ー対応しなかった場合のリスク
まず、何も対応しなければどうなるか、ということを裁判例から読み解きたいと思います。
(東京地判平成29年11月30日)
「①事業主は、…被用者が職場において他の従業員等から暴行・暴言等を受けている疑いのある状況が存在する場合、雇用契約に基づいて、事実関係を調査し適正に対処をする義務を負うというべきではあるが、②どのように事実関係を調査しどのように対処すべきかは、各企業の置かれている人的、物的設備の現状等により異なり得るから、そのような状況を踏まえて各企業において判断すべきものである。そうすると、企業は、その人的、物的設備の現状等を踏まえた事実関係の調査及び対処を合理的範囲で行う安全配慮義務を負うというべきである。」
ここから分かることは2つです。
①そもそも、社内のハラスメントに関する相談や内部通報に対し、適切に対処しなかった場合、ハラスメント当事者だけでなく、適切に対処しなかった管理職・経営者ひいては会社 そのものが、損害賠償請求を受ける可能性があること。
②企業は、事実関係の調査について、人的・物的設備の状況等をふまえた合理的範囲で行う安全配慮義務を負うこと。
安全配慮義務とは、簡単に言うと、従業員が身体的にも精神的にも安全に働けるよう、企業側において配慮すべき義務のことです。①に繋がる話ですが、この安全配慮義務を講じていないと、事業者が労働者に対して損害賠償などの責任を負うこととなります。
3 事実確認・調査――最低限おさえるべき4つのこと
いくつかの裁判例を調べた結果いえることは、パワハラ・コロハラの問題が生じたとき、事業主側は、会社の業種・規模にかかわらず、事実確認・調査を実施することがマストであるということです。
そして、調査の際は、最低限以下の4点にご留意いただけると、企業側がきちんと安全配慮義務を全うしていると、一定の評価を得られる傾向にあると考えます。以下、調査を実施する際にご注意いただきたい事項と併せてご紹介します。
①迅速な着手
・時間が経てば経つほど、正しい情報を拾えなくなる可能性が高い。
・調査は、当事者→関係者→その他と、中枢から放射状に拡げていくイメージで行う。
②当事者双方及び周囲の社員等と面談を行い、事情を聞く
・同時同所ではなく、それぞれ別々に面談を行う。
・特に当事者に対しては、2度以上行う。
・仮にハラスメントに該当しないケースであっても、注意指導等の在り方について行き過 ぎがなかったか、反省を促す。
③相談者からの要望に応じ、調査経過・結果や判断過程を報告する
・個人情報やプライバシー情報に関する事項は、開示するかどうか、開示するのであれば
その方法について十分に注意を払う。
④公正・中立性に疑いの余地を挟まない工夫をする
・1人で対応せず、複数名で調査を行う。
・他の関係機関(総務部や人事部)との連携を図る。
4 まとめ/次回の解説内容
以上でいったん区切りたいと思います。
今回の動画では、
■パワハラ・コロナ-ハラスメントの“事後”対応
として、これらの申告を受けた場合に会社として行うべき事実確認・調査とその注意事項
を中心に解説していきたいと思います。
次回の動画では、今回の話をもう少し掘り下げて、
■実際に社内調査を行う際におさえるべき基本的な調査事項
とし、関係者から聞き取るべき内容等について解説したいと思います。
次回もご覧いただけたら嬉しいです。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
著者プロフィール
井上瑛子 弁護士
おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属