労使トラブルの中心

企業からの相談の中で、「解雇したいが、どうすればいいのでしょうか」「退職した従業員から、不当解雇と言われて困っています」という相談を受けることがあります。
逆に、労働者からの相談でも「辞めさせられた。企業を訴えたい」という相談をよく耳にします。
解雇・退職をめぐるトラブルは、労使トラブルの中でもかなりの割合にのぼっているようです。

解雇・退職の基礎知識

まずは、解雇・退職とは何か、その基本的な位置付けをご説明します。
次の表をご覧ください。解雇も退職も、雇用契約の終了原因のうちの一つです。

当事者の意思による終了 労使双方の意思 ① 合意解約
一方当事者の意思 労働者の意思 ② 退職
使用者の意思 ③ 解雇
当事者の意思によらない終了 ④ 定年等

すなわち、雇用契約の終了のうち、

① 使用者と労働者との合意により終了する場合を、合意解約といいます。
例えば、使用者と労働者とが解約合意書を作成した場合などです。

② 労働者の一方的な意思により終了する場合を、退職といいます。
例えば、労働者が退職届を提出した場合などです。

③ 使用者の一方的な意思により終了する場合を、解雇といいます。
例えば、使用者が解雇通告を行った場合などです。

④ そのほか、労働者の定年退職、労働者の死亡など、
当事者の意思によらずに雇用契約が終了する場合もあります。

雇用契約の終了をめぐるトラブルでは、まずは、終了原因がこのうちどれに当たるのかの見極めが出発点になります。
例えば、上司が労働者に「やめてくれ」と伝えて、労働者が翌日から出勤しなくなった場合に、「解雇」に当たるのかはよく検討する必要があります。

どのような場合に解雇・退職は有効か

1 解雇の有効性

解雇が有効と認められるためには、①解雇の合理的・相当性(無期雇用契約での解雇の場合)、あるいは、②やむを得ない事由(有期雇用契約での期間中での解雇の場合)が必要となります。
そのような判断においては、人員削減の必要性等の会社側の事情や、勤務不良等の労働者側の事情など、さまざまな事情が考慮されます。
そのため、解雇が有効かどうかは一概にはいえませんが、「企業が従業員を有効に解雇することは難しい」という前提で、事前に専門家に相談することをお勧めします。

2 退職の有効性

退職の場合には、労働者の意思による雇用契約の終了であるため、その有効性は問題にならないと思われがちです。
しかし、退職の場合にも、企業が退職を強要したと疑われれば、解雇と同様に有効性が問われます。
そのため、そのようなリスクが考えられる場合には、単に退職願・退職届を受領するだけでなく、退職に至る経緯等にも配慮する必要があります。

解雇・退職が無効である場合のリスク

もし、解雇や退職が「無効」と判断された場合、企業はどのような不利益を受けるのでしょうか。

例えば、ある企業が平成26年3月31日に解雇通告をして、その翌日(平成26年4月1日)から従業員が出勤しなくなりました。ところが、その後、その従業員との間で解雇が無効と主張され、平成26年10月1日に、裁判所より「解雇は無効」との判断されたとします。

その場合、「解雇は無効」なので、その企業と従業員との雇用契約はずっと続いていたことになります。
そのため、企業は、従業員に対し、平成26年4月1日から平成26年10月1日までの給与を全て支払わなければなりません(その間、従業員が出勤していなくても同様です)。
さらに、企業と従業員との雇用関係は今後も継続することになります。

このように、解雇・退職が無効とされる場合に、企業が受ける不利益は甚大なものです。経営者の中には、「解雇が無効なら、1か月分の給与を支払わなければならない」などと誤解している人もいます(このケースは、解雇予告手当という別の制度との混同しているようです)。

しかし、まずは、解雇・退職が無効とされるリスクをしっかりと理解したうえで、適切に検討・対応する必要があります。