Q.診療報酬の請求ミスに対応の遅れがあったため厚生労働省の「個別指導」を受けました。次に「監査」が行われるようですが、どのような対応をすればいいでしょうか?

A.「個別指導」・「監査」は、保険医療機関・保険医による保険診療や診療報酬の請求が適正に行われるよう、厚生労働大臣が行うものです。

「個別指導」は社会保険の給付についてのルールを周知徹底させるために行われるもので、「監査」は「個別指導」によっても改善がみられない場合などに行われます。

「監査」後の措置としては、注意、戒告、指定・登録取消の3つがあります。「監査」の結果、診療内容・診療報酬の請求に関し不正・不当の事実が認められた場合、医療機関は全患者分の診療録の自主点検を行い、返還同意書を厚生労働省に提出するとともに、保険者に対して返還しなければなりません。

「個別指導」・「監査」への最初の対策としては、弁護士による助言により、正しく診療を行い、正しくカルテに記載し、正しく診療報酬請求をすることがあります。「個別指導」・「監査」を受ける段階では、保険医・保険医療機関の防御の機会を確保するため、委任を受けた弁護士などが同席することが望ましいといえます。

「個別指導」・「監査」の具体的な対応は、医療機関によって異なる検討が必要ですから、医療機関・施設の法務について専門知識のある弁護士にご相談ください。

1 「個別指導」・「監査」とは

健康保険では、全国健康保険協会など(保険者)が、事業所に使用される者(被保険者)から保険料を徴収し、保険医療機関・保険医による医療の給付に対して診療報酬を支払います。こうした保険者、被保険者、保健医療機関・保険医の3者からなる制度を円滑に運用するためには、診療・診療報酬についてのルールを周知徹底する必要がありますから、保険医療機関・保険医は診療の給付に関して厚生労働大臣の「指導」を受けなければなりません。

「指導」とは、保険医療機関・保険医に社会保険の医療担当者として適正な療養の給付を担当させるため、規則等に定められている診療方針・診療報酬の請求方法・保険医療の事務取扱等について周知徹底し、保険診療の質的向上・適正化を図ることを目的として行われる行政指導をいいます。「指導」のうち、保険者・被保険者等からの情報提供があった場合などに対象となる保険医療機関等において個別に面接懇談方式で行うものなどを「個別指導」といいます。

厚生労働大臣は、療養の給付に関して必要があると認めるときは、保険医療機関・保険医などに対し報告・診療録その他の帳簿書類の提出・提示を命じたり、出頭を求めたり、質問・検査することができます。
こうした出頭命令・立入検査等を通じて、保険医療機関・保険医の行う療養の給付や診療報酬の請求が適正であるかどうかなどを確かめることを「監査」といいます。

2 「個別指導」・「監査」の手続き

(1)個別指導

「個別指導」は、社会保険の給付についてのルールを周知徹底させるために行われるものです。

「個別指導」が行われる日の約3週間前に「指導実施通知」が送付され、事前に「保険医療機関の現況」等の資料の提出が求められます。

「個別指導」当日は、事前に抽出したレセプトに基づいて診療録などの閲覧が行われます。指導結果は、「個別指導」修了後に指導担当者から口頭で説明があり、後日、文書により通知されます。

(2)監査

「監査」は、本来「個別指導」とは別の制度ですが、「個別指導」によっても改善がみられない場合などに行われます。

「監査実施通知」は、原則として「監査」が行われる日の約1週間前に送付されますが、緊急の場合などには当日に手交されることがあります。

「監査」に応じなかったり、虚偽の報告をしたりしたときは、保険医療機関の指定・保険医の登録が取り消されることがあります。

「監査」後の措置としては、注意、戒告、指定・登録取消の3つがあります。

「監査」の結果、診療内容・診療報酬の請求に関し不正・不当の事実が認められた場合、医療機関は全患者分の診療録の自主点検を行い、返還同意書を厚生労働省に提出するとともに、保険者に対して返還しなければなりません。

3 「個別指導」・「監査」への対策

「個別指導」・「監査」は社会保険の給付が適切に行われるためのものですから、正しく診療を行い、正しくカルテに記載し、正しく診療報酬請求をすることが最初の対策といえます。しかし、「保険医療機関及び保険医療養担当規則」といった行政機関の規則はわかりにくいものが多く、一般の医師・歯科医師には理解しにくいものも多くあります。そこで、こうした規則について弁護士が事前に指導することが考えられます。

「個別指導」・「監査」は、保険医・保険医療機関に対する診療報酬の返還請求や保険医指定の「取消処分」を行うかどうかに影響があるため、医療機関が適切に対応する必要があります。「個別指導」・「監査」の透明性を確保し、保険医・保険医療機関の防御の機会を確保するため、委任を受けた弁護士などが同席することが望ましいといえます。

「個別指導」・「監査」の具体的な対応については、医療機関によって異なる検討が必要ですから、医療機関・施設の法務について専門知識のある当事務所にご相談ください。