定年について




 

こんにちは弁護士の田代です。
今回の動画では「定年」について解説いたします。
早速内容を見ていきます。

この動画では、「定年」の5つのテーマについて解説します。
最初のほうは一般的な内容で、
1.定年制とはそもそも何なのか。
2.世界ではどんな風になっているのか。
3.日本の定年制はどのようにして出来上がってきたのか。
その次、4・5が法的な問題点。
この5つを解説します。最初の3つは軽い話なのでお気軽にお聞きください。

1 定年制とは

定年制とは何か簡単に言いますと、労働者が一定の年齢、60歳だとか65歳だとかある年齢になった時に労働契約が終了する。そういう制度です。ここは皆様よくお分かりかと思います。

2 世界の定年制

この定年制。実は世界中で共通するものではありません。アメリカとかイギリスでは定年制は採られてない。むしろ定年制は違法なんです。年齢による差別だということで違法とされています。

これに対して、ドイツとかフランスについては定年制が採られています。だいたい定年が65歳から66歳・67歳とかに今引き上げられてる途中だというイメージです。日本よりもちょっと定年が遅いというイメージですね。アジア諸国はどちらかというとドイツ・フランスに習ってる国が多いのかなということで、中国や日本も定年制が採られています。

これを大きく言うと、雑学ですが大陸法と英米法。世界の法律は二つの大きな体系がありまして、英米法というのがアメリカ・イギリスです。大陸法というのは主にヨーロッパの中でのドイツ・フランスなどの古くからの先進国。このイメージですね。それぞれの体系があって、日本は両方から取り入れています。定年制についてはドイツ・フランスを習ってるのかなというイメージですが、そうでもないのかよくわからない。

3 日本の定年制

⑴ 定年の歴史

日本の定年制について見ていきます。
まず定年制の歴史です。これはそんなに古くないのかなというイメージで遡って行きますと、皆さんご存知、敦盛の一節「人間50年」織田信長が有名ですよね。でもよく誤解されるのがこの頃って人の寿命って50歳だったのかというとそんなことはございません。”人間”とは「にんげん」ではなくて、「じんかん」50年と言いまして、50年の間にこんなことがというくらいのニュアンスで、当時から人の寿命や現役世代というのはもうちょっと長く、例えば70歳とかいう方もよくいらっしゃいましたので、特にこの言葉に意味はないということからまず出発します。

定年制は結構最近で、実は明治時代以降に出てきたものです。これは一部の官僚というのか役人・公務員の方の中で採用されはじめた制度から始まります。大正時代もまた、そういう一部の職業を中心に普及し始めた。昭和に入ってからだんだんと一般化し始めたということで、一般的に定年というのが出てきたのは昭和というイメージです。かなり最近の制度ということからまずご理解ください。

⑵ 定年の引き上げ

定年は何歳だったのかというと、1930年代くらいまでは55歳というところが出発点でございました。これが 1986年以降バブル期末期ぐらいから引き上げられはじめて、まず60歳に引き上げ(努力義務)。次に1998年60歳に引き上げ(義務)ということで、これはよく使い分けられます。

最初に「努力義務」ということで、皆さん何となく努力しましょう。別に違反しても直ちにペナルティはありませんよ、というところから始まって、違反したらいけませんということで「義務化」される。こういう二段階の法律の改正はよく使われてまして、努力義務から義務で、60歳になりました。

次に65歳で、定年という縛りじゃなくて、そこまでは何とか工夫して働いてもらいましょうという努力義務から始まって、2006年以降雇用確保措置というのが義務化されていく。2006年から2013年までの間に段階的に年齢をあげて行って、2013年これが今のイメージですけれど、65歳までの雇用確保措置が義務化されてるということです。定年は60歳で、雇用確保は65歳。これが今の現状です。後で詳しく解説します。
最近70歳までの雇用確保措置が努力義務と定められました。これがどうなるのかですけれども、努力義務としたら今後いつかは義務となる、そういうことはあり得るのかなと。これは結局年金の受給制限ですよね。そことどうもリンクしてしまっている。これが日本の特徴かなと思いまして、特に諸外国を見習っているというわけでもないのかなと。もともとこの定年というのはそこで退職金をがっぽりもらってリタイヤできる、という制度だったんですけれども、まあ年金の受給年齢の引き上げに利用されている、そういうイメージを私個人は持っております。

4 定年制の法的ポイント

次に法的な問題点について話していきます。
まず定年とは先ほどの通りで、「労働者が一定の年齢」今でいうとこれが60歳に達した時に契約が終了する制度だと。

1 定年の年齢を定めておく必要がある

一定の年齢っていうところが一つのポイントでして、まず先に年齢を決めておく必要があります。今お話ししました60歳、これは法律上60歳は下限ですよね。最低ラインとして60歳とされてますが、別に65歳と決めてもいいですし70歳と決めてもいい。ただ決めておく必要がある。どうやって決めるのかと言うと就業規則で決めるというのが基本です。決めてないとどうなるのかというと定年はなくなります。会社の中で就業規則で決めてないと、定年がなくてつまり永遠に基本的にはその方が自分から辞めるか、あるいは病気で働けなくなるという話がない限り、基本は永遠に働いていただくということです。

2 60歳が最低ライン

またもう一つ60歳が最低ラインということで、例えば55歳というふうに決めちゃってるとそれは無効です。無効になった時にどうなるかって言うと、これ難しいので問題点だけお話ししますと、じゃあ60歳になるのかという問題と、あるいはそもそも無効だから永遠に働いてもらうのかというこの二つのリスクがございます。企業側にとってはリスクですよね。企業側が定めることですので、そういった視点でお話ししますとそういうリスクがございます。ご注意ください。

3 65歳までの雇用確保措置が必要となる

また60歳が最低ラインで、もう一つだけお話ししました65歳までの雇用確保措置が必要となってるというのも最近ですよね。さっきお話ししたものが最近決められて、努力義務から義務になってる。そういう雇用確保措置というものがございます。

雇用確保措置を見ていきますが、大きくこんな風に分類されてますが、定年をなくすこととか、定年を65歳にするだとかは基本的なさっき話したことですのでいいとして、一番よく問題になるものが再雇用ですよね。再雇用ということで1回60歳で定年で退職してもらって、それから改めて例えば1年更新とかで働いてもらう。65歳まで働いてもらう。これが一般的かなと思いますので、この制度について詳しく見ていきますね。

5 定年後再雇用の注意点

⑴ 雇い主の変更

定年後再雇用の注意点ですが、まずは雇い主ですね。必ず同じ会社じゃないといけないのかというと必ずしもそうでなくて、グループ会社、資本関係がある会社であれば OK という制度ですね。

⑵ 勤務条件(職務内容&賃金等)の変更

二番目からが大切な話です。まず勤務条件を変更することが許されるのか。例えば仕事の内容ですよね。基本60歳とかの方って日本の多くの企業だとそれなりのポストの管理職の方が多いのかなっていうイメージではございますが、60歳で定年になった後にはじゃ全然違う仕事をしてもらうと、それに伴って給料も変わってくる。これが許されるのかと言うと基本は許されます。

ただ縛りがあるのは労働者側が到底受け入れられないような条件、これについてはだめですと。例えば人事部長とかをされてた管理職の方が、例えば運送会社だとしたら運送の現場の仕事をしてもらう、ドライバーをしてもらうということだとか、その方がこれまで築いてきた仕事の内容と大きく変わる、その方の立場から受け入れられないような条件ということだと許されない。それが許されると受け入れられない仕事をどんどん出していって、それで辞めさせるということが許されるので、そこはできません。

またもう一つは賃金面ですよね。賃金についても仕事の内容が変われば賃金も変わる、当たり前ですけれども、それが一つ最低賃金以上なのは当然ですが、まあもう一つその幅からしても到底無理だと言う話だとダメだと、そういう縛りがあります。このあたり結構最近の裁判の判決の中で出来上がってる理屈です。

⑶ 賃金の変更

次にこれも大事な点。 賃金の変更。増額は基本できる。無条件にできます。減額がどうなのかと言うと、一つの目安ですが同じような仕事の場合には、もちろん最低賃金以上じゃないといけない。そうじゃない時でも元々の賃金の6割を下回るというとまあ許されないかなっていうのが最近のこういった裁判例の積み上げで見られる傾向です。

6割を上回るといいのかと言うとそこまで安心もできない。ただ6割を下回ると直ちにだめっていう風に言われやすいのかなというイメージです。これはただ同じ仕事なので、仕事の変更とかを定年した後、週5勤務が週2勤務になりました週3勤務になりましたとかそういう条件が変わってくるって言うことに伴う減額と言うと必ずしもこの限りじゃないことも覚えておいてください 。

ただもう一つ手当によって不支給はダメだと。もともと払われていた手当が払われなくなった。例えば元々あった通勤手当がなくなると、それってあんまり定年の後だとかなんとかって関係ないでしょ、通勤する人はみんな出るでしょと、そういったものとかについては急にそれでだめだと言うとそれは違法ですというように、手当てによっても個別に判断されるという点にご注意ください。

ということでざっとまとめると、再雇用の注意点としては、まず一つ目は簡単な話グループ会社でも良し。条件の変更は到底受け入れられないようなのはだめです。賃金の変更は同じような内容であれば6割を割るとだめです。危ないです。

一応こういう内容です。このあたりはただ法律に書いてない。最近の裁判での積み重ねで出来上がり始めてる考え方です。教科書にも書いてない、弁護士になる資格の勉強の中でも普通出てこないっていうことで、これ結構ですねこの辺りについて勉強してる弁護士とそうじゃない弁護士っていうので知識が全然違います。なので皆様も、もしこういったことで使用者側・労働者側の方でも、こういった点について何かしら発表してるような事務所の弁護士にご相談いただくっていうのがいいんじゃないかなと思います。非常に難しいことです。簡単に言うとこういう話ですけれども、非常に難しい問題ですのでご注意ください。

以上、今回の動画では定年についてというテーマで1番から5番、簡単なことから難しいことまで説明したつもりです。また何かお困りなこと、ご不明な点などございましたらお気軽にご相談ください。失礼します。