刑事裁判における刑罰




 

 

 

刑罰の種類

日本の刑事法上、計6つの刑罰(死刑、懲役刑、禁固刑、罰金刑、拘留、科料)が定められています。
今回は、刑罰の中でも実際に刑事裁判となった場合に課されることの多い2つの刑罰、罰金刑、懲役刑について解説したいと思います。もっとも、令和4年6月に国会で成立した刑法の改正により、近時懲役刑が削除され、拘禁刑という刑罰に代わりますので、そちらについても本記事において説明いたします。

罰金刑と交通違反における反則金

罰金刑とは、刑事裁判における裁判所が定めた金額を納める刑罰です。
交通違反の際に警察署に納める金銭も罰金と呼ばれることが多いので、そちらと混同されがちですが、交通違反の際に支払う金銭は行政罰である「反則金」というものであり、刑罰である罰金とは異なります。刑事裁判における最終的な裁判所の判決に基づくものが罰金刑、軽微な交通違反について、刑事裁判を回避するために支払うのが反則金です。

罰金と反則金の主な違いは上の表にまとめた通りです。
まずは納付先ですが、交通違反の反則金であれば警察署にて納付するところ、罰金は検察庁にて納付することになります。
また、罰金は金銭を納付する刑罰ですので、いわゆる前科という形で記録されることになります。一方で、反則金は行政罰という刑事裁判を経てなされる刑罰ではないので、前科として記録が残ることはありません。
仮に反則金を払わずにいた場合、道路交通法違反として正式な刑事裁判手続きが始まり、改めて裁判所による刑罰という形になることもあり得ます。反則金の方が比較的軽いものと思われますので、裁判で交通違反の事実を徹底的に争いたいというような場合でない限りは、反則金はきちんと支払うことをお勧めいたします。

罰金を支払わない場合

罰金を支払わないまま放置すると、税金の支払いを滞納したような場合と同等に、国から個人の預貯金や不動産といった財産を差押えられることになります。
差し押さえるべき財産がないような場合ですと、代わりに労役場での労働、という形で罰金を納めることになります。労役場での日当は大体5000円であり、10万円の罰金であれば20日間程労役場で働くことになります。

懲役刑とは

懲役刑とは、刑務所に服役して刑務所で刑務作業を行う刑罰です。
刑務作業には報酬も発生しますが、平均月額4700円程度の額であり、一般的な労働や労役場での作業に比べても少ないです。
懲役刑の場合、刑罰として刑務作業を行っていますので、これに伴う報酬は少額となっているようです。

懲役刑と似て非なる禁固刑

懲役刑と似た刑罰として禁固刑があります。禁固刑自体は懲役刑と比べて圧倒的に少ないのが現状ですが、後述する拘禁刑との関係でこちらも併せて説明しておきます。
禁固刑も刑務所に服役する刑罰ですが、懲役刑と異なるのは刑務作業が義務ではないという点です。もっとも、刑務作業を希望すれば刑務作業を行うこと自体は可能であるとのことで、禁固刑受刑者の中でも刑務作業を行う人は多いため、実際上区別する意義は現状薄くなっているようです。

新設される刑罰「拘禁刑」

令和4年6月の法改正(令和4年9月17日時点では未施行)により、上記の懲役刑と禁固刑が削除され、拘禁刑という刑罰に統一されます。
拘禁刑とは、「改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、または必要な指導を行うことができる」という刑罰です。懲役刑のように労役が必ずしも義務でなくなりますが、労役を課すこともできるという意味では、禁固刑とも違う刑罰になります。
従前、刑務所に服役すると言えば懲役刑であり、労役の義務があることがほとんどでした。令和4年の法改正では拘禁刑を設け、労役を必須ではなくすることで、必要に応じて更生に必要なカリキュラムを増やす等、受刑者に応じた柔軟な対応をできるようになります。
最近の傾向として、刑務所への入所者数自体は減っているものの、再犯者の入所率は増えているというデータもあり、このような背景の下で、入所者の更生に向けた柔軟な対応を可能にする趣旨の法改正だと思われます。

執行猶予

判決に付される執行猶予というものですが、これは執行猶予期間中、別の犯罪を起こして執行猶予が取り消されるまでは、刑の執行を猶予し、執行猶予期間を満了した場合には刑の執行を免除する制度になります。
上のスライドの具体例であれば、懲役2年、執行猶予5年ですので、まずは5年間懲役刑の執行が猶予され、裁判所の判決が確定してからといってすぐに刑務所に入ることにはなりません。そして5年間無事に満了すると、懲役2年は免除されるということになります。一方で、5年以内に新たな罪を犯してしまい、3年の懲役刑が科され、懲役2年についていた執行猶予も取り消されると、新たな懲役3年と懲役2年を合算して、計5年分服役することになります。
執行猶予という文言からはわかりづらいですが、問題を起こさない限りは刑が免除される制度ですので、弁護人としては可能な限り執行猶予がつくように弁護活動を行っていくことになります。

著者プロフィール


田中大地 弁護士

おくだ総合法律事務所
司法修習74期
福岡県弁護士会所属
福岡県立修猷館高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了