受け取った代金が犯罪に関係する金だった ~そのお金、返さなきゃダメですか?~




 

代金として支払われた金銭の潜在的なリスク

インターネットの発達に伴い、個人の方でもネットを通じて自分の作った商品を販売し、代金を自分の口座に振り込んでもらう、ということはそう珍しくありません。ところが、代金が振り込まれ、安心して商品を発送したら、犯罪被害者から、その代金は自分のお金なので返して下さいと言われ、自分の口座も犯罪に関係する口座ということで、口座の凍結までされてしまった、このような場合、どのように対処すべきでしょうか?

口座不正利用被害者からの請求

Aさんは、Bさんにネットでアクセサリーを代金5万円で販売し、Bさん名義の口座から5万円を振り込んでもらって、アクセサリーを発送しました。そうしたところ、実はBさんを名乗る人物は偽物で、本物のBさんから口座通帳と暗証番号を盗んだということであり、「振り込まれた5万円は私の物だから、返してくれ」と言われたとします。
Aさんも、本物のBさんも、どちらも偽物のBさんの被害者ですので、どちらを優先して保護するべきなのか、という話になります。

口座不正利用被害者が金銭の返還を求めた裁判


このような犯罪に関わるお金について、返すか返さないかという判断をした裁判がありました(京都地裁令和3年1月19日判決)。
裁判で問題となったのは、通販サイトのギフトカード購入のために振り込まれたお金がネットバンキングの不正利用のお金だったので、被害者が通販サイトにお金を返してくれと請求した事案でした。

結論をいうと、「不正利用につき、悪意又は重過失でなければ、返還する義務を負わない」として、裁判所は被害者からの請求を認めませんでした。平たく言えば、不正利用について知らなかった、そして知る由もなければ、お金を返す必要はないと判断したということですね。
不正利用で引き出されたお金であっても、不正利用を防止するのは金融機関とか、利用者本人がすべきことであって、その責任も金融機関や利用者本人で負うべきものであるとも述べており、不正利用についてなんら関与しようのない通販サイト側は一番の被害者であるという発想が背景にあるのだと思います。

裁判所はあらゆる場合において返還しなくていい、と判断したわけではないことには注意が必要です。裁判所の判示の裏を返せば、知っていた、あるいは一般常識的に考えて知ることができた、というような場合には、お金を返さなければなりません。ただし、この「知ることができた」ということについては、裁判所が「重過失」という言葉を使っていることからすると、相当特殊な事情がない限り、返還しなければならないことにはならないものと思われます。
返還しなければならない例として、買う人と売る人が共謀して、不正に取得したお金を返さなくてよいことにするために代金として振り込んだ場合には、不正利用について知っていたものとしてお金を返還しなければなりませんし、不正利用による金銭であることをほのめかしていたような場合であれば、知ることができた、と評価される余地がありそうです。

犯罪に関するお金についても、基本的に返還する必要はない

様々述べてまいりましたが、犯罪被害者から金銭の返還を求められた場合でも、基本的にはお金を返す必要はない、ということになります。
ただし、法律上は口座の不正利用による金銭振り込みのような場合、これを理由として振り込まれた口座を凍結することが可能になっており、捜査機関等の情報提供によって、口座が凍結される可能性があります。こうなってしまうと、早く手を打つ必要がありますので、まずはお近くの弁護士に一度ご相談いただければと思います。

著者プロフィール


田中大地 弁護士

おくだ総合法律事務所
司法修習74期
福岡県弁護士会所属
福岡県立修猷館高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了