私的制裁の禁止

jt01先日、あるお店で発生した万引き事件について、被害にあった店側が「一週間以内に盗んだ物を返却しなければ、防犯カメラに写った顔写真をホームページ上で公開する」との警告をしていたところ、警察から「捜査に支障が出る」として公開しないよう要請が出され、店側もこれに応じて写真の公開を取りやめる、という一連の流れがあり、世間を賑わせましたね。

このニュースを聞いて、「顔写真をネット上で公開されるなんてかわいそうだ!」という意見よりも、「悪い事をして逃げているのだから、写真を公開されて当然だ!」という意見の方が、多数だったように思います。
実際に、ある調査ではそのようなアンケート結果も出ているようです。(日本経済新聞Web刊 読者アンケート参照。)
たしかに、現実として防犯カメラには犯人が万引きをしている映像が証拠として残っており、公開しようとした理由も、既に捕まった犯人への戒め目的などではなく、あくまで物の返却を求めるためでした。よって、公開しても良いのではないか?と考えるのも、もっともかもしれません。

しかし、警察からは公開中止要請が出され、結局写真は公開されずに終わりました。それは一体なぜだったのか。

まず前提として、日本では“私刑”ないし“私的制裁”は、禁止されています。どういうことかというと、法治国家である日本では、法で定められた手続きによらず、私人が犯罪者に対して何らかの制裁を加えることは許されていないのです。なぜなら、「やられたらやり返す」ということが許されれば、裁判所などは不要となってしまいますし、当然国家の秩序も乱れてしまうからです。
そして、たとえ相手が何らかの犯罪を犯した人であっても、原則としてその人にも基本的人権の保障は及びます。よって、相手が犯人だということが確実な場合でも、やはりその人の人権を侵害するような行為(暴行をしたり、持ち物を盗んだり、プライバシー権を侵害したり・・・)をなすことは、許されないのです。“許されない”とはつまり、それを行なってしまえば、どんなに相手が悪かったとしてもそれ相応のペナルティを受ける、ということです。

今回のケースで店側が写真を公開していれば、お店側が何らかの罪に問われる可能性があったといえます。具体的には、「この人が万引き犯です」といって顔写真を公開するという行為が、名誉毀損罪(刑法230条1項)にあたる可能性がありました。さらに、場合によっては、「品物を返しに来なければ、顔写真を公開するぞ!」というやり方が、脅迫罪(刑法222条1項)とされる可能性もありました。
結局のところ写真は公開されませんでしたが、一連の騒動にはこのような事情があったというわけです。お店側は、犯人を吊るし上げようという意図は有しておらず、速やかに商品を返してもらうことを目的として警告をしたようなので、犯人が捕まって商品が返ってくるのであれば、自らが何らかの罪に問われる危険を冒してまで写真を公開する必要もなかった、といったところでしょうか。

ところで、今回の防犯カメラの映像のように、捜査にとって必要かつ重要と思われる情報があったとして、捜査機関から「捜査のため」としてその提示等を要請された場合、これには必ず応じなければならないのでしょうか?
これについては、少し長くなってしまいそうなので、次回のテーマにしたいと思います。

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