誤振込による法的問題




はじめに

最近、多額の誤振込が大きな話題となったことは記憶に新しいことかと思います。日常生活の中で振込を全くしないという方もそんなに多くはないでしょう。確認したつもりが、振込先が全く別の口座だった、そんな可能性はどなたにでもあるかと思います。
今回の動画では、そんな誤振込によって生じる法的な問題を、民事上の責任に絞って解説していきたいと思います。

誤振込における関係の整理

振込の場合において、一般的な取引と異なるのは、間に銀行を介しているということです。振込先の間違いにより、誤振込者が振り込んだお金は、青い矢印の通り、誤振込者の銀行からさらに銀行を通して、相手の口座に入っていくことになります。簡単な図ですが、お金の流れとしてはこのような形になるでしょう。
ただし、誤って振り込まれたお金ということになりますから、誤振込先の人がお金を取得できるわけではありません。そこで、赤い矢印の通り、誤振込先の口座の持ち主にお金を返してくれ、という請求をしていくことになります。
この請求を、法律的には不当利得返還請求といいます。

不当利得返還請求権

誤振込の場合、相手はお金を受け取る法的な理由がないわけですから、スライド赤字で示しました、条文にいうところの「法律上の原因」がないということで、相手はお金を返還しなければなりません。
ただし、注意すべき点が一つございます。青字で書いておりますが、「利益の存する限度において、これを返還する義務を負う」とされておりまして、この「利益の存する限度」というものが少々厄介です。
この話に深く踏み込む前に、民法703条と民法704条との違いについてお話させていただきます。
この2つの条文の違いは、端的に言えば、
①悪意であるかどうか
②振り込まれたお金のうちどの程度が返ってくるか
という2つの点になります。
この2つの点の違いを詳しく見ていきましょう。

悪意とは

まずは、①悪意であるかどうかという点です。
一般的に、悪意といえば、なにか害を加えてやろう、悪いことをしてやろう、という意味で使われる言葉ですが、誤振込における法律用語としての悪意とはそのような意味ではなく、間違えて振り込まれたものであると知っていたこと、より正確に言うならば、お金を払う理由があって振り込まれたものではないと分かっていたという意味で、ここでは理解していただければと思います。
2つ目のどの程度お金が返ってくるのか、という話にも関係しますが、例えば誤振込だと分かっていてお金を使った人と、そうとは知らずに使って人だと、知らずに使った人が、後日誤振込であったから全額返せと言われたとしても、それはかわいそうではないか、保護すべきではないかという考えの下、悪意であるかどうかで区別がなされています。

返還する範囲

次に、②振り込まれたお金のうち、どの程度返還すべきかという点です。
誤振込だと知っていて使った人と、知らずに使った人だと、知らなかった人の方は保護すべきだという考え方の下、知らなかった人、つまり悪意でない人については、今現在残っている分を返せば足りるとされており、「利益の存する限度において返還する義務を負う」(現存利益)というのは、そのような意味であると理解していただければと思います。
一方で、誤振込だと分かっていた人、つまり悪意であった人は、ちゃんと理解したうえで使い込んでいる以上、振り込まれた全額に加えてさらに利息までを返還しなければなりません。

利益の存する限度

誤振込であると知らなかった場合には、「利益の存する限度」、つまり残っている分を返還すればよい、という話をしてきましたが、実は、10万円を誤振込され、5万円を使ってしまった場合には、残っている5万円のみを返せばよい、という単純な話ではありません。
具体的には、10万円が誤って振り込まれ、口座から5万円を引き出してスーパーでの買い物や、ファミリーレストランでの食事等のいわゆる生活費に使ってしまった場合、口座に残っている5万円だけを返還すればいいのではとも考えられます。もっとも、裁判所は生活費について、本来は自分の財布から支出するものであるところ、その支出を免れている以上、その分財布に残っているはずであるという発想から、口座に残った5万円と支出を免れた5万円、合計10万円を現に残っている利益として、返還すべきという考え方をしています。借金の返済に充ててしまったような場合にも、同様です。

一方で、現存利益が残っていないものとして認められる代表的な具体例は、ギャンブル等の遊興費に使ってしまったような場合が挙げられます。
ただし、ギャンブルに消費してしまったような場合であっても、数百万、数千万円という多額を使い込んでいる場合や、誤振込のあった日から突然ギャンブルを始めるようになったというような場合には、そもそも誤振込であったと認識していた、つまり悪意であったと認められる場合もございます。誤振込した金額を全部ギャンブルに使われてしまった場合には、必ずしも返ってこない、泣き寝入りするしかない、ということにはなりませんので、その点はご安心ください。

今回のまとめ

以上、今回のまとめとしましては、
・誤振込の場合は不当利得返還請求として、お金を返してもらえる
・相手が誤振込だと分かっていた(悪意)かどうかで、どの程度お金が返ってくるかが変わってくる
・現存利益とは、必ずしも口座に残っている金額と一致しない
という3つとなります。

しかしながら、そもそも誤振込の相手がどこの誰なのかを調べる、相手が返還を拒絶した場合に裁判等の手続きを行う、相手が使い込んだことは認めるが、お金がないことを理由に開きなおって支払わない、そういった場合にはご本人様で回収を行うことが難しい部分もあるかと思います。
もしも誤振込をしてしまったという場合、きっとお力になれることがございますので、まずは一度弁護士にご相談いただければと思います。

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