解説 2020年の民法改正 第1回 全体像とポイント




こんにちは、弁護士の田代です。
今回の動画から、民法の改正について詳しくご説明したいと思います。

2020年に民法の大幅な改正が予定されています。改正の内容は膨大になるため一度の動画で全てご説明することは到底できません。そのため、今回は第1回として、改正の全体像と改正点のポイントについてご説明したいと思います。特に今回の改正は膨大になるためどこから手をつけていけばいいのか、何から勉強していけばいいのか分からない方もいらっしゃるかと思いますので、そういった方は特にご参考にしていただければと思います。

2020年の民法改正の流れ

まず、改正についての大まかな流れをご説明しますと 、2006年の2月に民法を改正しようという方針が決定されました。
そして、検討委員会が組織されて改正内容について協議が重ねられ、2015年3月31日に改正法案が国会に提出されました。
そして、2017年5月26日に国会で改正法が成立しまして、その翌月の6月2日に改正法が公布されました。ただし、法律は、公布されても直ちにその運用がとられるというわけではありません。公布というのはまず国民に法律の内容を知らせるということで、それから実際にそのルールが適用されるのは、法律が施行(せこう)されてからになります。

そして、この施行が2020年4月1日からでして(段階的な例外もありますが)、概ね改正法のルールが2020年の4月1日から運用開始されるということになります。そのため、2020年の民法の改正というと、まさに2020年の4月1日から民法の運用が変わっていくという意味で、皆様の生活に影響するということになりますので、ご理解いただければと思います。

2020年の民法改正の特徴

そして、この民法改正の特徴について簡単に説明しますと、まず、120年ぶりの大改正といわれています。120年ぶりというのは、今の民法が成立したのが1896年(明治29年)なのですが、それ以来の大改正といわれています。

ただし、改正される範囲については限定がございまして、概ね債権法が中心ということになっております。

債権法というのは何かといいますと、「人の人に対する請求権」、これが債権と呼ばれております。これは民法の中の一部です。

例えば、他に民法には物権という権利もございまして、これは「人の物に対する権利」ですね。

例えば「この(PC用の)マウスは僕のものだ」というのは、物権の規定です。ただ、他方で「このマウスをあなたに売ります」と約束したのに僕がそれを買主に渡さない場合、その時に買主が「このマウスを約束通りください」と要求する権利、これは債権(人の人に対する請求権)になります。そして、(PC用の)マウスの例だと分るように、この「人」というのは企業(法人)も含まれますので、そういった意味で皆様の生活について広く当てはまる法律だとご理解ください。

また、この他、民法には家族関係(親族、相続)の規定もありますが、これも今回の改正の対象からは概ね除外されています。特に相続関係などの改正は、実は2019年の1月に改正がなされており、段階的に制度が変わっています。

この制度とはまた別ものとして、2020年4月の民法改正については、債権(人の人に対する請求権)についての改正だということをご理解ください 。

2020年の民法改正の方法

今度は2020年の民法改正の方法ですね。法律の改正というのが具体的にどういう形で改正されるのかという点についても、簡単にご説明します。

まず、民法は、1000条を超える条文数の非常に膨大な法律です。このような法律の改正といっても、一から作り直すものではありません。例えば、それまでの条文はそのままにして、必要な条文を新しく追加したり、不要な条文を削除したり、あるいは一つの条文の中で言葉を変更・追加したり、そういった形で改正がなされています。法律の改正というと、概ねこういった方法が取られています。今回の民法の改正についても同様であるとご理解いただければと思います。

具体例を挙げてみますと、まず、条文自体が追加されたものとして、上の図の民法第3条の2という条文が追加されました。このように条文が新しく追加される時には、何条の何という形(例えば、第3条の2、第3条の3などの形)で追加されるということが一般的です。
そうすることで、それが追加された時に他の条文を繰り下げたりする必要がないわけです。これが、第4条として追加されると、今度はそれまでの第4条が第5条になってしまうように1000条を越える条文に大きな混乱が出てきますので、条文の追加というのはこういう形でなされます。

そして、内容としては、例えば第3条の2は「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」といった条文が新しく追加されました。

この他、今度は条文自体ではなく条文の中の言葉の追加・変更がなされた点についても、イメージしやすいように具体例をあげます。

例えば上の図の第93条ですね、この太字部分が追加あるいは変更されたものです。そしてこの削除打ち消し線が書かれてる部分(上の図の「表意者の真意」の部分)、これが元々あった言葉、これが消されてると。今回は、例えば打ち消し線の言葉が消されて、その横の太字のところが追加された、つまりそんな形で言葉が変更になったという条文になります。一応ざっと読み上げますと、

意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

こういった形で言葉の変更がなされています。さらに続く第2項が新しく追加された言葉です。

前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

と、こういった言葉が追加されました。内容につきましては非常にわかりにくいところもあるかと思いますので、今回はこういった形で法律の追加や変更がなされてる、つまり改正がなされているということをイメージしていただければと思います。

2020年の民法改正の2つの理由

そして今回の民法改正の理由についてもご説明しますと、概ね二つの理由から改正がなされています。これは少し大事な点だと思いますのでご注意ください。

まず、第一の理由として、社会や経済の変化に対応させるというものです。これは先ほど説明しましたように120年ぶりの大改正ということで、元々は明治時代の法律ですね。そこからこの120年で社会はめまぐるしく変わっています。そのためこれまでの民法では対応できないところもありますので、それを現代社会に則して法律を対応させると、非常に分かりやすい改正の理由ですね。

次に、第二の理由は、民法を国民一般にわかりやすいものにするというものです。先ほど見ていただいたように言葉自体も少し分かりにくいところもありますが、それ以上に、これまでの民法(120年前の法律)がこれまでに大改正がなされずに運用ができていた理由としては、読み方の解釈の議論がなされ、あるいは裁判で争われて、この言葉はこう解釈するという蓄積がなされてきました。その結果、社会情勢の変化にもある程度は対応ができた運用が維持されてはいたものの、あくまで解釈ですので皆様にはわかることができない、つまり法律の言葉には出てなかったんですよね。そういう解釈を理解するのが弁護士や裁判官といった法律家の役割になるんですけれども、そういった法律家が主に担ってきた解釈というものを、これを法律の言葉にきちっと反映させましょうと。そういった意味で民法を皆様に分かりやすいものにするというのが今回の二つ目の改正の理由になります 。

この二つの理由ですね。まず、社会経済の変化に対応させるという第一の理由で改正された点については、当然法律の内容自体が変わってくるので、2020年の4月から皆様の生活にも影響が出てくることが多いかと思います。

ただ、他方で第二の理由ですね。民法を国民一般にわかりやすいものにするという理由から改正されることに関しては、これは先ほどご説明しましたように、これまでは解釈によって柔軟に運用してきたことを法律の言葉に表現するということになります。そのため、言葉に表現するという形だけですので、直接皆様の生活に大きな影響があるものではない、つまり、運用自体はこれまでとほとんど変わらない。ただし、それが国民にわかるようにきちっと言葉に法典化するという、そういった点になります。

そこで、今回の民法改正のポイント、特にどういった点を中心に学習・理解していったらよいのかという点に話を広げますと、二番目の点(民法を国民一般にわかりやすいものにする趣旨からの改正点)はあまり社会生活の変化を伴わないものですのでそちらはさておき、まずは第一の点(社会経済の変化に対応させるために民法の内容自体を改正したもの)に注目して頂いたらいいんじゃないかと思います。

では、このような改正点が民法の改正内容の具体的などこになるのかを説明しますと、先ほど説明しました2015年3月31日に改正法案が国会に提出されたときに提案理由が示されております。この理由をそのまま読みますと

社会経済情勢の変化に鑑み、
①消滅時効の期間の統一化等の時効に関する規定の整備、
②法定利率を変動させる規定の新設、
③保証人の保護を図るための保証債務に関する規定の整備、
④定型約款に関する規定の新設等を行う必要がある。
これが、この法律案を提出する理由である。

という風に明示されております。
このことから、今回の改正の重要な点が明らかになります。

法務省WEBサイト「重要な実質改正事項(1~5)」
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html

上の図のように①から④までの理由を並べて整理しますと、

① 時効に関する規定の整備(消滅時効の期間の統一化等)

時効というのは、ある権利があってもそれが長年期間が経つともうその権利が消滅する(正確には行使できなくなる)といった制度です。
例えば、売買契約に基づいて僕がこのマウスを誰かに売るということで、先ほどのようにこれを契約通りであればどこかの時点でその人に渡さないといけない。ところがこれを渡さないままで時効期間が経過すると渡さなくてもよくなる、これが時効の制度です。この時効の期間が、これまで取引の種類などによってバラバラになっていました。それを今回は統一化しようというのがこの①ですね。

② 法定利率を変動させる規定の新設

先程の例にしますと、このマウスを誰かに売るということで、今度は逆に僕の方が代金を払ってもらっていないという例でいいます。契約上、そういった場合の利率あるいは遅延損害金の金額が明示されていない時に、年に何パーセントという利率が民法上決められていました。ただ、この利率というのは、これまでは固定利率で決められていましたが、利率というのは経済状況によってある程度変わった方がいいんじゃないかということで、何年間かに一度見直そうということで、そういう法律の仕組みが作られました。それが法定利率を変動させる規定の新設です。

③ 保証債務に関する規定の整備(保証人の保護を図るため)

次に、保証人ですね。例えば、建物を賃貸するときなどに保証人については、自身が保証人になったり、あるいはどなたかに保証人になってもらったりされた方も多いんじゃないかと思います。この保証人の保護を図るための規定の整備がなされました。

④ 定型約款に関する規定の新設

次に、定型約款と言うと、主に契約の内容ですね。特に皆さんにとって身近な、例えば公共交通機関に乗車するときの契約内容とか、あるいはクレジットカードを作る時の契約の内容とか、そういったものに影響するものが定型約款です。これに関する規定が新設されました。

⑤ 債権譲渡に関する見直し

最後に記載の債権譲渡の見直し、これについては先ほどの法案の提出の理由には示されていませんでしたが、議論の中でこれについても重要な改正点として挙げられております。

そしてこの①から⑤の改正内容ですね。これは法務省もWEBサイトや説明会などで公表しておりまして、下記のアドレスのとおり、重要な実質改正事項(1~5) という形で、上の①から⑤と同じものが明示されております。

法務省WEBサイト「重要な実質改正事項(1~5)」
http://www.moj.go.jp/content/001259610.pdf

そういった意味で、今回の民法の改正については、まずはこの点から学んでいくのが最も良いのではないかと思います。

さらに改正内容について深く学習されたいという方は、例えば同じく法務省のWEBサイト(下記アドレス)の中で、主な改正事項の1から22に広げて説明されています。

法務省WEBサイト「主な改正事項(1~22)」
http://www.moj.go.jp/content/001259612.pdf

これが主な改正事項として公表されておりますので、まずは上に挙げている①から⑤の重要な実質改正事項を勉強していただいて、余裕のある方は更にこの1番から22番に挙げられてる主な改正事項も見ていただいたら良いんじゃないかと思います。

以上、今回の動画では、まず民法の改正についての全体像、改正の流れ、改正点のポイント、特に学習する上でどういった点について中心に勉強していけばいいのかという点についてご説明致しました。

次回からは、個別の改正内容、特に先ほどの1番から5番を中心に個別に解説していきたいと思います。

引き続きよろしくお願いします。

著者プロフィール


田代隼一郎 弁護士

おくだ総合法律事務所
平成24年弁護士登録
福岡県弁護士会所属
熊本県熊本市出身
真和高校卒
九州大学法学部卒
大阪大学大学院高等司法研究科修了