解説 2020年の民法改正 第2回 時効に関する規定の整備(前編)




こんにちは。弁護士の田代です。
前回からシリーズ「2020年の民法の改正」について解説しています。
今回は、第2回、「時効に関する規定の整備」を前編と後編に分けて、このテーマについて前半部分の解説をします。

前回の動画で、2020年の民法改正の概要とポイントの2点について解説しました。
民法改正のポイント、これについては民法の改正内容は非常に様々な点まで改正されていますが、重要な点を絞ると、上の画像の5つのテーマに絞ることができると、こういった点をその理由もつけて解説しました。

今回の動画からは、この5つのテーマについて順番に解説していきたいと考えています。
そこで、今回は①のテーマ「時効に関する規定の整備」について解説します。

「時効に関する規定の整備」の内容については、大きく4つに分けることができます。
第一に「消滅時効の期間の統一化」、第二に「不法行為債権等の時効規定の整備」、これらは1つのセットになっています。
そして、第三に「時効の中断・停止」、こういう概念がこれまであったんですが、その概念の見直しということがなされています。
そして第四に「その他」(細かい点)です。
この4点に絞ることができます。

そして、今回の「時効に関する規程の整備」という4つのテーマについては、⑴と⑵を前編とひとくくりにして、⑶と⑷を後編とひとくくりにして、今回の動画では前編(⑴と⑵)のテーマについて解説していきます。

時効に関する規定の整備

1 時効の意味

改正点の解説に入る前に、”そもそも時効ってなんなんだ”という点から解説していきます。
時効というのは上の画像の1に書いているとおり、債権者が長期間権利を行使しなければ債権が消滅する、という制度を言います。
権利がある人でも長い間権利を行使しないと、もうその権利自体が消滅してしまう、という制度です。

例えば右下の絵を見ていただくと…お金を貸していた人が、長い間お金を返してもらう事をしなかった。本当なら返してもらえるはずなのに、そういった約束の条件は整っているのに、ずっと返してもらわずに、何十年か経った後に「返してください」と言ったとします。
こういった時には、言われた方が「時効だ」と主張しますと、もうお金は返さなくていいと、債権者にとってはお金を返してもらえないと。非常に辛い制度ですね。

2 時効の趣旨

①永続した事実状態の尊重

こういった時効制度の ”趣旨” ですが、例えば一般的には次のように言われています。
まず、『永続した事実状態の尊重』。
ちょっと分かりにくい言葉ですが、ざっくばらんに言うと、「今更言わないでくれ」「今更言われても困る」。債務を負っている人からみるとそういった気持ちになる、それが一番の理由です。

例えば、私が経験してる事件などでも、ある家を借りてる人の保証人になっていた人がいました。その人は頼まれて保証人としてサインをしたものの、もう家を借りてるその人との関係は切れてしまった。借主は元々従業員だった人で、自分は雇い主として保証人の欄にサインしてあげたけれども、もうその人はとうの昔に仕事を辞めていて、今はどこにいるかわからない……と思っていたところが、 20年ぐらい経って家主の方から保証人に対して家賃の請求がされました。
もうどこに行ったか分からないし、引っ越してしまって県外にでも行っているはずなんですが、その借りている人は、その建物を友人に又貸しして、本人は行方をくらませてしまっている。又貸しされた人もなんとなくタダで住んでしまっていて、お金も特に請求されないので居座っていた。
こんな状態が10年から20年間続いて、それに気づいた家主さんが住んでいる人と保証人に請求してきました(元々借りてた人はどこにいるかわからないため)。
請求額としては何千万円にものぼる。そういった金額をいきなり請求されると、これは保証人にとっては「今頃言わないでくれ」と、もっと早くから言ってもらえていたらそんな金額になる前になんとかできたのに…と。
これが①の「永続した事実状態の尊重」であるとイメージができるかと思います。

② 証明困難の救済

②『証明困難の救済』。
これは、お金を請求された時に、例えば、「一部は返してるはずだ、返して領収書をもらっていた」と。そして何十年後かに請求された時にはもう領収証も破棄してしまっている。
そういったように、本来証明できるものも証明できなくなってしまう、こういった困難を救済する趣旨です。

③ 権利の上に眠れる者は保護しない

③は、『権利の上に眠れる者は保護しない』。
これは逆に、家主さんの方です。
保証人に対して早期に請求することができたのに、それをしなかった落ち度があるんじゃないか、というイメージが、時効という制度の存在理由ということで理解できると思います。

この時効に関する規定の改正点は、⑴から⑷の4点ですが、今回のテーマとなる⑴消滅時効の期間の統一化、それと、⑵不法行為債権等の時効規定の整備、この内容について簡潔に説明します。

消滅時効の期間の統一化

債権は原則として5年で時効消滅します。ただし、不法行為による生命・身体以外の損害賠償請求権、こういった請求権については3年で時効で消滅することになります。
大まかに言うと時効の期間の関係ではこういった内容になりました。その他にも例外規定はありますが、それについてはそれほど多くは問題にならない。 こういった点が今回改正されたということですね。
この内容について条文を見ながら解説します。

まず改正前です。 これは原則として「債権は10年間行使しないときは消滅する」とされておりました。
改正法は5年間という数字がありまして、改正前は10年間という数字があります。
これはちょっと語弊のある言い方ですけれども、この点は後でまた解説します。

こういう原則がありますが、実は例外がたくさんありまして、3年で消滅時効になるとか、2年で消滅時効になる、1年で時効にかかる、とか。
例えば、飲食店のつけとか、弁護士の報酬とか、あるいは医者の報酬とか、そういったものなど、様々な取引内容に従って、3年だったり2年だったり1年だったり、あるいは5年とか、あるいは原則どおり10年だったりと、非常に分かりにくい制度だったのです。

そこで、今回はこれが分かりにくいということで、まず例外規定は削除。短期で3年とか2年とか1年だとか、そういう例外は基本的には削除しましょう、という改正がされました。

そして、改正後はどうなったかと言いますと、先ほど語弊があると言ったこの「権利を行使できる時から10年間行使しないとき」。こういった制度は残っているのです。
債権は次に掲げる場合には時効によって消滅する。その1つが 「権利を行使できる時から10年間行使しないとき”」、もう1つが先ほど言った原則という形になるのですが、「権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」。おおまかに言うとこの2本立てです。

まず、権利を行使できることを知ってから5年間行使しなければ、時効で消滅します。そして、仮に、権利を行使することができることを知らなくても10年間権利を行使しなければ時効によって消滅します。こういう2本立てになっているのですが、皆様にとって普通は、権利を行使することができることを知らない、ということはほとんどありません。そのため、基本的には、権利を行使できることを知った時からということで、返せと言える時から5年間返せと言わなければ時効によって消滅します、という制度になりました。

しかし例外がありまして、一つは不法行為の損害賠償請求権、これは改正前と基本的に変わらないことになります。これは損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときに時効によって消滅します。

あるいはこういったことを知らなくても、不法行為の時から20年間権利を行使しなければ時効によって消滅する。

例えば、交通事故に遭った時には自分が被害にあったことは基本的には分かりますので、事故に遭ってから3年間行使しなければ、時効によってその権利は消滅する。これは従前の通りです。

ただし交通事故に遭った時でも、例えば、追突されて車が壊れました。その車の損害については3年間というこの従前の制度が当てはまるのですが、人の怪我とか、あるいは亡くなってしまったというケースで、3年間で責任逃れが出来るというのはちょっと酷ではないか、と。この点の手当てもされています。

この点が例外の第2点。人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権は、次に掲げる場合には時効によって消滅する。

①(損害及び加害者を知った時から)5年間行使しないとき。
②がもしそういった点を知らないときでも(不法行為・債務不履行の時から)20年間行使しないときは消滅する。
こういった制度になりました。

消滅時効の期間のまとめ

今ご説明しました点を改めてまとめますと、これは先程見ていただいた図のとおり、大原則として、債権は原則として5年で消滅時効にかかる。これまでは10年が原則で、あるいは3年だったり2年だったり1年だったりと例外がまちまちであったんですけれども、基本的には5年で消滅時効にかかります。

ただし例外として、不法行為による損害賠償請求権のうち、身体や生命の侵害じゃないもの、先ほどで言うと車が壊れましたとそういったケースでは、元々の不法行為の制度と同じく3年で消滅時効にかかる。

③でその他の例外規定もあるがそれはあまり問題にならない。

この点は今回すでに解説したことですが、この画面にまとめますと、その他の例外規定としては、客観的起算点と言われてますね。これは権利を行使できる時から10年。これが原則と何が違うのかと言うと、原則は権利を行使できることを知った時から5年で、キーワードは「知った時」です。普通は知らないというケースはほとんどないので5年が原則。あるいは不法行為での物的損害などの賠償請求権などについては3年が原則です。これが知った時というキーワードです。

その例外としては、知らないとしてもどうかというと、これが、権利を行使できる時から10年間で消滅する。あるいは生命や身体に関する損害賠償請求権、これについては少し長くなっており、不法行為あるいは債務不履行の時から20年。

債務不履行での生命・身体の侵害、これでわかりやすいのは、労働契約ですね。例えば、雇われて何か危険な作業をしていたところで怪我を負ってしまった。こういった時には雇い主は不法行為だけではなく、不法行為が成立しないとしても債務不履行ということはあります。あるいは、医療過誤ですね。これも医師との医療契約の不履行という債務不履行ですので、生命・身体の損害賠償請求のこともありますが、こういった生命・身体の損害賠償請求権については、不法行為・債務不履行問わず20年という例外ですね。 他方で、債務不履行による生命・身体の損害賠償請求権について「知った時」から何年かといいますと、これは①の原則に戻って、一番上の原則、5年で時効消滅とこの大原則に吸収される。

今回のこの消滅時効の期間に関しての改正点について、しっかりとご理解いただくという観点では、上の画像を頭に入れておくということで足りるのはないでしょうか。
そういった意味でシンプルにまとめておりますので、よくご確認いただければと思います。

時効に関する規定の整備というテーマのうち、今回は(1)と(2)について今回ご説明いたしました。次回は(3)時効の中断・停止概念の整理と(4)その他についてご説明致しますので、よろしければご覧ください。

それでは2020年の民法改正シリーズの第2回、時効に関する規定の整備の前編をこれで終わりたいと思います。

著者プロフィール


田代隼一郎 弁護士

おくだ総合法律事務所
平成24年弁護士登録
福岡県弁護士会所属
熊本県熊本市出身
真和高校卒
九州大学法学部卒
大阪大学大学院高等司法研究科修了