今日は民事上の時効制度について、お話します。
よくテレビや物語で「あの話は時効だ!」とか、「あの事件は時効だ」とか、時効、という言葉自体に馴染みはあるかと思いますが、法律上の意味は少し違うかもしれません。
この動画をご覧いただくと、時効の制度内容や、趣旨、それから刑事上の時効の違いについて、お話します。

1 そもそも時効ってどういう制度?

民事上の時効とは、ある事実状態が一定期間続いた場合に、その事実状態が真実の権利関係に合致するかどうかはさておき、その事実状態を尊重して、権利関係の方を適合させる制度、つまり、そういう法律関係なんだといってしまう制度をいいます。

たとえば、ある土地を、登記簿上はAさんのものなのに、隣に住むBさんが自分のものだと思って、Aさんの土地にまたがって家を増築したとします。

本来の権利関係は、土地の所有者はAさんのはずなのに、Bさんが増築して一定期間継続すると、Bさんがその土地の所有者だ、といえることになる、という制度です。

2 刑事上の時効(公訴時効)との違い?

刑事上の時効は、正式には「公訴時効」というのですが、これは、犯罪が終わった時から一定期間を過ぎると、公訴が提起できなくなることをいいます。
民事上の時効と違って、時効が成立したからといって事実状態が尊重されるわけではありませんから、当然犯した罪の事実そのものや、違法性が消えるものではありません。

3 民事上の時効制度の趣旨

⑴ 永続した事実状態の尊重

一定の事実状態が、一定期間継続すると、今度はそれを前提に、さまざまな法律関係が形成されることになります。そのような法律関係について、法律上の保護を与えましょうというのが、この言葉の意味です。

たとえば、先程のBさんも、増築部分の底地を自分のものだと思って、家ごとCさんに売ってしまうかもしれません。
だいぶ後になって、Aさんから、あの土地は私のものだと言われても、Cさんは困っちゃうわけです。Bさんが長年住んだ家だし‥と信頼したCさんのこと、法律的に言うと、取引の安全を保護しましょうということです。

⑵ 権利の上に眠る者を保護しない

たとえ真実の権利者であったとしても、一定期間、その権利を行使しなかったり、権利を維持するために努力しなかったのであれば、もはやその人を保護する必要はないだろうというものです。
先程の話でいえば、BさんとCさんにとって、自分たちのものと信じてずっと土地を使っていたのに、今さらAさんにワーワー言われても…と思ってしまうわけです。

⑶ 立証困難の救済

民事上の基本的な考え方として、ある権利が争いになったとき、その権利を主張する側が、どうしてその権利をもっているのか、証明責任を負うことになります。たとえば契約書であったり、権利証であったり、証言できる目撃者だったり、そういう証拠や証人を出すことになるのが一般的です。

でも、長期間が経過してしまうと、そういう証拠や証人はどうしても散逸してしまうので、過去のことが分からない、ということになってしまうわけです。そこで、時効制度は、過去に遡って議論することに一定の限界を設けているわけです。

以上が、時効制度の趣旨です。これらは、大学の法学部生なら一度は聞いたことがある・・というか、テストで出るぞといわれることもある3ワードです。

4 2種類の時効制度

民事上の時効には、2つの種類があります。

⑴ 取得時効

1つは、先程のBさんのように、他人のものを自分のものとして事実上支配している状態が一定期間継続することによって、その物に関する権利・・所有権や、借地権などの取得が認められるものです。これを、取得時効といいます。

⑵ 消滅時効

もう1つは、権利を行使しない状態が一定期間継続することによって、その権利の消滅が認められる制度です。これを、消滅時効といいます。これは、逆にいうと、その権利に対応する義務を負った方にとっては、その義務が消滅することになります。

たとえば、BさんがAさんから100万円を借りたけど、約束の返済期限を過ぎたのに、Aさんは「返せ」と言ってこない。このような状態が一定期間続くと、Aさんがお金を返してもらう権利・Bさんがお金を返す義務が消滅することになるのです。

5 おわりに

言葉ではよく聞く時効の、法律上の本当の意味や存在理由をご説明いたしました。取得時効・消滅時効の具体的な成立要件とか、それから時効を停める方法もありますので、それはまた今後の動画でご紹介させていただけたらと思います。

著者プロフィール


井上瑛子 弁護士

おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属