「社内でコロナ陽性者・濃厚接触者が!」その情報管理、大丈夫ですか?焦る前に、知っておくべきこと





今回は、社員に新型コロナウイルスの陽性者や濃厚接触者が出たというケースを想定し、会社側の情報の取扱いについて、個人情報保護法やプライバシー権という観点から整理し、ご説明したいと思います。

 

1 はじめに

いざ会社内で陽性者が出たときに、最も気を配らなければならないことの1つが、情報の流れです。
ですが、実際にその状況になってみると、他にも対応しなければならないことに追われる中で、まず間違いなく混乱します。どんな情報をどこまで取得し、共有するかといった情報管理について、心を配る余裕はありません。
そこで、いわば“避難訓練”のように、今のうちから対応策を検討し、実際に事が起こったときにその手順をふめるよう、シミュレーションを繰り返すことが重要です。

この動画では、そういった“避難訓練”のご参考にしていただけるよう、情報の取扱いについて知っておくべき基本的なことをご説明いたします。

まず簡単な設問を上げておき、その後で、より詳しく、法律上の考え方について解説いたします。

2 設問

Q1 感染情報・感染疑い情報を、本人やその家族等から取得することはできるか?

Q2 社員の感染情報・感染疑い情報を、本人の同意なしに社内に公表できるか?

Q3 社員の感染情報・感染疑い情報を、その社員が接触したと考えられる取引先に、本人の同意なしに情報提供することはできるか?

Q補足  保健所から、当該社員の勤務中の行動歴について情報提供を依頼された。本人の同意なしに提供できるか?

3 感染情報・感染疑い情報等の法的性質

結論から申し上げると、感染情報(「新型コロナウイルスに感染した」「陽性反応が出た」といった情報)も、感染疑い情報(「コロナ陽性者と濃厚接触した」といった情報)も、個人情報保護法やプライバシー権の中で保護される情報です。
したがって、会社において、社員の感染情報等を取り扱うに際しては、大きく⑴個人情報保護法に違反しないか、⑵個人のプライバシー権を侵害しないかという点に注意を払う必要があります。
以下、詳述します。

⑴ 「要配慮個人情報」…個人情報の保護に関する法律(いわゆる個人情報保護法)

 

ア 感染情報=「要配慮個人情報」として保護

「新型コロナウイルスに感染した」、「陽性反応が出た」といった情報は、個人の健康情報の一種であり、個人情報保護法の中で「要配慮個人情報」に該当するものとして保護されています(法2条3項)。
要配慮個人情報は、人種・信条・社会的身分・病歴・犯罪歴といった、差別や偏見を生む可能性のある個人情報をいい、その性質上、住所や氏名といった個人情報よりもさらに慎重な取扱いが求められるものです。

また、「新型コロナウイルスの感染者の濃厚接触者である」等、感染の疑いがあるという情報は、健康情報そのものには直ちに該当しないものの、「要配慮個人情報」に準ずるものとして取り扱うことが適当である、と議論されているところです。というのも、具体的な情報の内容や、感染疑いの程度によっては、その情報の取扱いが不当な差別・偏見等の不利益を招くおそれがあるので、感染情報と同様の慎重さをもって保護されるべきだと考えられているからです。

イ 「要配慮個人情報」の取扱い

一般的な要配慮個人情報(人種・信条・病歴等)は、原則として、本人に通知等している利用目的とは異なる目的で利用したり、本人の同意なくこれを取得したり第三者に提供することは禁じられています(法16条、17条、23条)。

これに対し、新型コロナウイルスの感染情報や 感染疑い情報について、二次感染防止や事業活動の継続のために必要があるときや、法令で許されているときは、例外的に、本人の同意を得ることが困難な場合であっても、目的外利用・取得・第三者への提供が許されると考えられています。

⑵ プライバシー権として保護される情報

 


感染情報や感染疑い情報は、他者にはみだりに開示されたくない情報なので、プライバシー権として保護される情報にも該当します。
プライバシー権として保護されている情報を不要に公開すると、プライバシー権の侵害として、損害賠償責任を負う可能性があります。

4 設問の検討

以上をふまえ、各問いについて検討したいと思います。

 

Q1 感染情報・感染疑い情報を、本人やその家族等から取得することはできるか?

⇒基本的に可能です。
感染疑いのある本人を対象に直接調査を行う場合は、本人が適切に回答するのであれば、そもそも本人から同意が得られた上で情報を取得したということになりますので、法律上支障はありません。
また、たとえばアンケート等で、誰が感染者かが分からない形で情報を取得する場合であれば、そもそも要配慮個人情報に該当しないので、情報を取得することは可能かと思います。
その他、たとえば社員のご家族が感染したようだという情報があったときに当該社員を対象として直接調査を行うケースでは、この場合の「本人」とはご家族になりますから、原則としてご家族本人の同意が必要となります。ただし、先ほど述べたとおり、二次感染防止等の必要がある場合は、例外的に、ご家族の同意なしに、社員の側から情報を取得することが可能です。

 

Q2 社員の感染情報・感染疑い情報を、社内に公表できるか?

⇒基本的に可能です。
個人情報保護法との関係では、社内の情報共有は、原則禁止となっている「第三者への提供」にそもそも該当しないため、本人の同意なく実施することが可能です。
ただし、必要以上の情報を、必要以上の範囲に公開しないよう、プライバシー権に配慮した対応を取りましょう。第三者への共有に当たらないからといって、たとえば接触の可能性が全くない部署にまで、感染者の氏名までを公表する必要性は乏しいでしょうし、紛争の火種になりかねません。

 

Q3 社員の感染情報・感染疑い情報を、その社員が接触したと考えられる取引先に情報提供することはできるか?

⇒基本的に可能です。
取引先での二次感染防止や事業活動の継続のために必要があると考えられるため、個人情報保護法との関係では、原則禁止に対する例外に該当し、本人の同意なく情報提供することが可能です。同様の理由で、ビル管理者等にも情報提供できると考えられます。
ただし、”その社員が接触したと考えられる取引先”というのがミソです。接触していないのであれば、二次感染のおそれや、事業活動の障害となるおそれがないということになり、例外事由に当てはまらないからです。
また、プライバシー権との関係では、設問2と同様、何をどこまで公開するか、配慮が必要です。

 

Q補足 保健所から、当該社員の勤務中の行動歴について情報提供を依頼された。本人の同意なしに提供できるか?

⇒可能です。
社員の行動歴に関する情報は、そもそも要配慮個人情報にはあたらないものと思いますが、個人データに該当し保護される場合があります。
もっとも、感染症法に基づき保健所が行う調査は、法令(感染症法15条1項)に基づく情報提供にあたるので、本人の同意なく提供することができます。
また、プライバシー権との関係では、保健所に提供するということで公開するわけではありませんから、会社の過失で情報が漏洩するような場合でない限り、基本的にプライバシー権侵害を問われることはないものと思います。

5 おわりに

 

以上、社員の感染情報・感染疑い情報に関し、その取扱い(取得すること、流すこと)について知っておくべきことをご説明いたしました。

今回ご紹介したケースは基礎的なものですが、クラスター発生といった、より大きなケースを想定する場合でも、まずは上記のポイントを基本に据えて、情報管理の対策を練ることになろうかと思います。

繰り返しになりますが、会社内で陽性者が出た場合、情報の取扱いには慎重にならなければなりません。
そして、いざというときに情報管理を適切に行えるかどうかは、今のうちからどれだけ対策を練り、備えておくかにかかっていると思います。

また、そうして練り上げられた対策は、予め社員それぞれに周知しておくとよいでしょう。社員の方々も安心して対応することができますし、会社の側も必要な情報を素早く取得することができるようになります。さらには、差別・偏見の防止にも繋がると思います。

なお、弁護士に直接ご相談いただければ、会社の規模や体制に合わせてより細やかな対策を練ることができるでしょうし、会社・社員のそれぞれに向けたセミナー等(もちろん、三密を回避したオンライン等で。)も企画できるのではないかと思います。

今回の動画・記事が少しでもご参考になれば幸いです。

著者プロフィール


井上瑛子 弁護士

おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属