“成年”になる皆さんへ(成年年齢引下げについて)【後編】




 

1 はじめに

この動画では、令和4年4月1日の法改正に伴う成年年齢引下げについて、前編・後編の2回に分けて、お話をしています。
今回の動画は後編ですので、まだ前編をご覧になっていない方は、是非そちらからスタートしていただけたら嬉しいです。

2 前編のおさらい・後編の内容

 

 前編では、
■ 適用状況の推移(あなたが成年になるのは、いつ?)
■ 18歳になってできること、できないこと(20歳のままのこと)
について、お話をしました。

それから、【盾】と【鎧】のお話をしました。あなたが生まれた瞬間から装備していた強い【盾】や【鎧】が、Lv18になった瞬間消えてしまうので、新しい【盾】【鎧】を準備しておきましょうね、という話です。

今回、後編の動画では、
■ 避けては通れない“契約”のお話
■ 【盾】【鎧】の正体
■ 新しい【盾】【鎧】を作るために
■ さあ、あなただけの冒険を
という小見出しで、お話をしたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。

3 避けては通れない“契約”のお話

 ⑴ 契約とは

契約とは、簡単に言うと、「法的に保護される約束」のことです。
もう少し詳しく言うと、2人以上の人がいて、一方が申し込みをして、他方がそれを承諾すると、合意・約束が成立します。そうしてできあがった合意が契約です。
契約が成立すると、その内容に応じて権利(~することができる)や義務(~しなければならない)が発生し、当事者を堅く結びます。

 ⑵ たとえば…

たとえば、コンビニに行ったときのことをイメージしてみてください。
あなたはレジの店員さんに「これをください」と言ってジュースを渡し、お金を支払います。店員さんはあなたからお金を受け取り、あなたにジュースを渡します。この一連の流れも、立派な売買契約です。

その他にも、
古本を売ったり(あなたが売主となる売買契約)
運賃を支払って電車に乗ったり(旅客運送契約)
銀行にお金を預けたり(消費寄託契約)
会社に就職したり(雇用契約)
将来は車や家を買ったり売ったり(売買契約)。
社会生活は、契約で溢れています。ちなみに弁護士に依頼すること、これももちろん契約です(業務委託契約)。

 ⑶ 契約は口約束でも成立するんです

ここで知っておいてもらいたいのは、契約が口約束でも成立する、ということです。
「契約書」がなければ契約が成立しないかというと、そんなことはありません。一部の契約類型(保証契約など)を除き、基本的に契約は口約束でも成立します。
先ほどのコンビニの例からも分かるとおり、いちいちジュースをいくらで買います、売ります、といった書面を作成したことなんて、ありませんよね?

じゃあ「契約書」は何のために作られるのかというと、契約書には、
・契約内容を明らかにしておく
・言った⇔言わない等の紛争を防止する
・後で証拠になる
といった役割があります。ジュースは買ってすぐに飲んでしまえばおしまいですから、手軽さが重視されるわけですが、他方で、家や車といった、高い買い物だったり、借りたお金をいついくら返すのかといった複雑な条件が絡む契約だったりすると、手間をかけてでも契約書を作っておく意義がある、というわけです。

 ⑷ しかも、1度契約が成立すると、簡単には破れません

1度契約が成立すると、原則として、これを取り消すことができなくなります。
なぜかというと、法律の世界では、取引の安全を保護しなければならない、という考え方が根幹に流れています。
もう少し具体的に言うと、契約で溢れている社会生活の中で、簡単に「やっぱりや~めた」が通じる世の中だと、誰も何も信頼できなくなって、物を売ったり買ったりできなくなってしまいますよね。電車だって、駅に着いていないのに降ろされたら、もう2度と乗るか!って思っちゃいますよね。そういった辞退を回避し、当事者が安心して取引できるように、1度結んだ契約はきちんと守る責任(これを履行責任といいます。)を負わせて、取引が安全に行われるよう保護しましょう、というのが民法の考え方です。
契約を守らない(履行しない、という意味で「不履行」といいます。)ときは、損害賠償義務などのペナルティも用意されています。

⑸ ここまでのお話をまとめると、契約というのは、口約束でも簡単に成立するのですが、1度成立してしまうと、簡単には破れないという強い拘束力が生まれることになります。未成年の皆さん、成年を迎える皆さんは、このことを必ず頭に入れておいてくださいね。

4 【盾】【鎧】の正体

このように、簡単に成立して、簡単には破れない契約ですが、これを合法的に取り消すことができる保護制度がいくつか存在します。その代表格として、①未成年者取消権、②クーリングオフ、③消費者取消権の3つを紹介します。

 ⑴ 未成年者取消権(民法)

前編の動画の中で、成年年齢引下げによって、「18歳から親の同意なく契約ができるようになります」と説明しました。逆に言うと、未成年者であるうちは、原則として契約を結ぶのに親の同意が必要、ということです。

民法では、親の同意がないままに未成年者が結んだ契約は、取り消すことができると定められています。
この未成年者取消権が、冒頭から言っていた、あなたがLv18まで備えていられる強力な【盾】【鎧】です。

ただし、こんな場合は取消しができなくなりますので、注意してくださいね。
・小遣いの範囲の少額な契約
→コンビニでジュースを購入するときも、特に親御さんの同意など求められません
よね?お小遣いで買いに来ているのね、という暗黙の理解があるからです。
・結婚をしている者が行った契約
→結婚をすると、「成年」とみなされます。これまでは、16歳~20歳未満の女性と、18歳~20歳未満の男性に適用される話でしたが、今後は成年年齢=結婚できる年齢となるので、意義としては薄れていくのかなと思います。
・「成人である」、「親の同意がある」とウソをついて行った契約
→「保護者の方に一筆書いてもらって」と渡された同意書に、あなた自身が書き込まないようにしましょうね。

 ⑵ クーリング・オフ(特定商取引法)

クーリング・オフとは、以下のような特定の契約形態について、契約後一定期間内であれば無条件で契約を解除することができる、という制度です。
・訪問販売、キャッチセールスによる契約(不意打ち的に勧誘されて結んでしまった契約) ➡8日以内
・継続的サービスによる契約(語学教室・エステ・家庭教師・塾など7業種。自分から店舗へ行って契約した場合も含みます。)  ➡8日以内
・連鎖販売取引(マルチ商法)  ➡20日以内

※ネット通販、オンラインショッピングは、クーリング・オフ制度の対象ではありません。ただし、ショッピングサイト独自の返品制度等が設けられている可能性があるので、取引に入る前に必ず確認しましょう。

 ⑶ 消費者取消権(消費者契約法)…便宜上こう呼びます

また、
・事実と違う説明をされた
・メリットだけ説明され、デメリットには何も触れられなかった
・「帰って」と言っても営業マンが帰らない/「帰りたい」と言っても店舗から帰らせてもらえない
こういった状況で契約した場合は、消費者契約法によって契約を取り消すことができます。

5 新しい【盾】【鎧】を作るために

以上、初期装備の【盾】【鎧】である「未成年者取消権」というものと、成年になって以降も利用できる装備の一部として、「クーリング・オフ」「消費者取消権」というものについて説明しました。

ここで、国民生活センターが発表している、未成年者の消費者トラブルの件数をまとめた図表を一緒に見てみましょう。
20歳になったばかりの若い世代はもちろんのこと、法改正前の現状でさえ、このように18・19歳の方が消費者トラブルに巻き込まれていることが分かります。
それでも、これまでの18・19歳の世代は、未成年者取消権によってある程度保護・防御することができたわけですが、令和4年(2022年4月1日)からは、そのような強力な装備が取り払われてしまうため、成年になるや否や消費者トラブルに巻き込まれる可能性が極めて高くなります。違法なマルチ商法などを持ちかけようとする大人にとって、【盾】と【鎧】が取り払われたばかりのこの世代が1番狙い目ということになるわけです。

図:「18・19歳」「20~24歳」の年度別相談件数

図表出典:令和3年4月8日 独立行政法人 国民生活センター報告書

そのため、皆さんは、今のうちから知識という装備を手に入れ、一生懸命磨きましょう。
もちろん、特定商取引法や消費者契約法の何条がどうのこうのを覚えてください、ということではありません。また、取消権を使うための条件を丸暗記しましょう、ということでもありません。

まずは、
・こういう消費者トラブルや危険があなたを待っていること→巻き込まれないこと
・万が一トラブルに遭った場合でも、あなたを救済できる制度があり得ること
・対応は、早ければ早いほどよいこと
ということだけでも、知っておいてください。
いざ自分が巻き込まれそうになったときに、「ハッ」とするかどうか、これだけでも全然違います。

トラブルに遭ったと感じたときは、何はさておき最寄りの消費生活センターや弁護士に相談してください。もちろん、信頼できる保護者の方に相談して、付き添ってもらっても構いません。

6 さあ、あなただけの冒険を

以上、後編の今回は、
■ 避けては通れない“契約”のお話
■ 【盾】【鎧】…初期装備の正体
■ 新しい【盾】【鎧】を作るために
という内容でお話しました。

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著者プロフィール


井上瑛子 弁護士

おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属