労働時間として取り扱うべき時間

 

労働時間とは

今回は、企業向けの内容として、「労働時間として取り扱わなければならない時間とはなにか」ということを、よく質問のある具体的な事例とともに改めて説明したいと思います。

法律上の労働時間というものは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」であるという理解が一般的です。結論から申し上げますと、この「使用者の指揮命令下に置かれている時間」に該当するか否かは、最終的には裁判所の判断に委ねられることになります。
もっとも最終的には個別事案によるとしても、どのような時間を労働時間として管理・把握しなければならないのかということについては、使用者側としても疑問に思う場面もあるかと思いますので、いくつか代表的な例を基に説明いたします。

労働時間の是非が問題となる代表的な例

本記事では、①研修・教育訓練、②健康診断、③手待ち時間、④通勤時間と出張時間、⑤労働者の勝手な残業時間という5つの例を取り扱います。

1 研修・教育訓練の時間

研修・教育訓練の時間については、研修等が労働そのものではなく、自己研鑽、スキルアップの場という側面もありますので、必ずしも労働時間に当たるとは言えません。
しかしながら、研修等について会社が指示して受けさせている場合や、事実上強制されているという場合には、労働時間に当たるものと評価される可能性があります。

2 健康診断

企業は労働者の定期的な健康診断実施義務がありますので、健康診断も企業が受けさせているものとして、労働時間に当たるのではないか、という懸念があるかもしれません。しかし企業に義務付けられているのは診断の実施であって、労働時間として扱うことまでが義務付けられているわけではないという理解が一般的ですので、定期健康診断自体は労働時間ではないと考えられます。
もっとも、一部の有害な業務に義務付けられている「特殊健康診断」については、業務の遂行に当然必須のものとして、労働時間に当たるものとされています。特殊健康診断については厚生労働省が一覧をウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf)上で公開しておりますので、危険物の取扱い等のある事業者の方は、そちらをご確認ください。

3 手待ち時間

手待ち時間とは、例えば電話番ないし来客当番のように、具体的な作業を行っているわけではありませんが、すぐに対応できるように待機している時間です。
具体的な作業や労働を行っていなくても、仕事が入ればいつでも動けるように待機し・拘束されている時間ですので、手待ち時間についても使用者の指揮命令下に置かれている時間として、労働時間に当たるものと考えられています。

4 通勤時間

通勤時間について、通勤の公共交通機関等の中で本を読んだり、あるいはスマホを見たり、労働者は自由に過ごすことができます。したがって、通勤時間は使用者の指揮命令の下にある時間ではないとして、労働時間には当たらないと考えられます。これは出張のための移動時間についても同様です。
しかしながら、「一度出社して客先に向かう」という場合の移動時間は、一度業務の時間が始まっていることから、通勤時間とは異なって労働時間に当たりうると考えられています。例えば、現場に行く前に一度会社で朝礼を行い、そこから現場に向かう場合、朝礼からの移動時間は労働時間と判断される可能性があります。一方で、出社せずに現場に直行した場合の移動時間は、労働時間には当たらないと判断される可能性が高いでしょう。このように、始業時の出社の有無で結論が変わる点にはご注意ください。

5 使用者が指示していない残業

一番最初に申し上げましたとおり、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」というものが労働時間ですので、使用者の指示していないところで残業していたとしても、それは労働時間には当たらないものと考えられます。
ただし、残業の指示をしていなかったとしても、「残業の事実を把握していたが明示的に禁止をしていなかった」あるいは「残業をしないように指示はしているが仕事量として残業が必要であり、事実上残業せざるを得なかった」というように使用者が黙認していたといえる場合には、労働時間と評価される可能性があります。

弁護士への相談を

以上のとおり、本記事では代表的な例について、労働時間に該当する又はしないということを説明いたしました。もっとも、最初に申し上げました通り、最終的には裁判所が判断するケースバイケースの話ですので、本記事で説明したことは、あくまで参考程度のものです。事業を継続する中で、労働時間として取り扱うべきか疑問の時間がございましたら、まずは弁護士へご相談いただければと思います。

著者プロフィール


田中大地 弁護士

おくだ総合法律事務所
司法修習74期
福岡県弁護士会所属
福岡県立修猷館高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了