契約の成立について~契約書・印鑑は必要か?




1 はじめに

こんにちは。弁護士の田代です。 今回の動画では「契約の成立について」というテーマについてご説明致します。

この「契約の成立について」というテーマは非常に古典的なテーマです。ただ、最近問題になっている新しいところもあります。 特に、契約書は必要なのか、印鑑は必要なのか、こういった点を中心にご説明いたします

2 よくある質問と回答

 

まずは、私が最近よく受ける質問をご紹介します。特に企業の方からの質問なんですが、「テレワークを導入し始めた。だけど、契約書に印鑑を押すために責任者が出社しなければならない。どうしたらよいですか?」 こんな形の質問をよく受けます。これは、私ども弁護士がそれぞれ個別に受けるだけではなく、日本全国でもこういった点が社会問題になっているようです。

そして、こういった質問にする私の回答は、上の画像にある3つになります。

1) まず、契約書に印鑑は必要ありません。2) また、印鑑に代わるサービス、そういったものもございます。3) また、そういうサービスは有料なので、使いたくないという方はメールなどで代用する事も可能です。これが結論になります。

3 契約自由の原則

 

その理由についてご説明しますと、まず、古典的な話ですが、日本の民法では「契約自由の原則」がとられています。

この原則は、上の画像に挙げた4つの原則があります。まず、1番目は、「締結の自由」です。すなわち、契約をするしないは自由です。強制的に契約をさせられる、などということはありません。この契約自由の原則は、近代化の中で市民が勝ち取った自由主義が反映されております。いわゆる「私的自治の原則」と両輪となる原則というイメージです。契約自由の原則により、強制的に契約させられることはありません。

さらに、2番目は、「内容決定の自由」です。すなわち、契約の内容も自分達で自由に決めて良いという保障です。

そして、3番目は、「相手方選択の自由」です。すなわち、誰と契約をするかについても、お互いの合意があれば自由に決めて結構です。

そして、4番目は、「方式の自由」です。すなわち、契約の方式についてはどのような方式でも自由とされています。この「方式の自由」、これが先ほどの質問に対する答えに反映されています。つまり、契約に当たっては、契約書という決まった書面は必要ございませんし、印鑑がなくても大丈夫という、そういった意味では大きな自由が保障されているのです。

4 身近な契約書のないケース

 

1 口頭で契約するケース

次に、実際に契約書のないケースを考えてみましょう。まずは、口頭で契約をするケースについて見ると、これが意外と沢山あります。皆様は、この一週間を振り返ってみると、コンビニエンスストアで買い物をされたことがあるんじゃないかなと思いますが、コンビニエンスストアでの買い物も、一つの契約です。ですが、レジでお金を払って品物を受け取るという一連の過程は、契約書を作らずに口頭でなされております。

2 無言で契約するケース

さらに、無言で契約をするケースを見ると、これも実は広く身近にあります。例えば、コインパーキングを利用されるときには、特に契約書も作りませんし、皆様も無言でされると思います。

さらに、公共交通機関を利用される時も、契約書を作ることなく、無言で契約されていると思います。このように、皆様の日常の中では、契約書のある契約よりも、むしろ契約書のない契約のほうが多いのではないでしょうか。

5 企業間取引のケース

 

では、企業間の取引ではどうなんでしょうか。

1 契約自由の原則(方式の自由)は同じく当てはまる

まず、契約自由の原則については、大原則ですので、企業間取引でも同じように当てはまります。そのため、先ほど説明した方式の自由、つまり、決まった方式ではなくても契約は成立します、口頭でも成立します、印鑑がなくても成立しますという原則についても、企業間取引でも当てはまります。 これが大原則です。

2 契約書の意味

では、多くの企業が契約書をばんばん使っている理由は、一体なぜでしょうか 。
企業間取引では、先ほどのコンビニエンスストアでの買い物のような、シンプルですぐに物が来るケースは多くありません。
例えば、企業が購入する物のやりとりに関しても、「いつからいつまでの期間」「月に何回」「これだけの分量」「注文する度に」など、わりと複雑な内容になりますし、また、代金の支払いについても、「月末締め翌月中旬払い」などといった形になるなど、契約の内容が複雑になります。

さらに、企業では、個人対個人と異なり、お互い多くの人間がからみますので(例えば、営業職と事務職など)内容を共有する必要があります。また、担当者が替わることもありますし、前任者の退職後に後任者が入るなどのケースも想定されますので、やはり書面でバッチリ残すということはとても重要になります。

そういった意味で、企業間取引では契約書を作成することが多く行われております。

3 印鑑の意味

次に、印鑑の意味についてご説明致します。これまでの説明を受け、「契約書を作るのはいいけど、印鑑はいらないのではないか?」という疑問を持たれた方もいるもしれませんが、これはもっともな疑問で、その通りだと思います。

ただ、印鑑の必要性について、一応注意しておきたい点があります。まず、契約書を作るに当たって、契約予定者間で「こんな契約書でどうでしょう」「いやいや、納期をもう1か月間遅らせてくれ」といったやりとりが続きます。そのような中で、ではいつ内容が確定したのか(お互いにGOサインが出たのか)という所に行き違いがあっては困ります。そこで、その点を明確にするという意味で「お互いに印鑑をついた時」に契約が確定するという点、これに印鑑の意味があります。

もう一つは、企業の印鑑(支店長印だったり、代表者印だったり、担当者印だったり)は、責任者(契約の決裁権のある人)の了解を得ていることの証明という意味もあります。そのため、重大な契約ほど、必要な印が上の人間(代表者など)の印になると思います。

さらに、一番素朴にわかりやすい意味ですが、印鑑がついてあれば、「こんなの知らん」「他の人が勝手に作ったんだ」「うちの企業じゃなくて、お前が勝手に作ったんだろう」などということは言われません。また、印鑑があれば、その文書が偽造されたものではないという点は、裁判(裁判官がそういう事実認定・判断をする)上でも一つの役割を担っております。

以上のような点が、企業間取引における印鑑の意味です。

4 代用手段

さて、上の「企業間取引のケース」の画像に戻りまして、4番目の代用手段についてご説明致します。印鑑はいらないということで、では、どういう形で取引すればいいんでしょう。

1) 専用サービス(クラウドサインなど)

まず一つ目が、専用のサービスがございます。日本のサービスでは、例えばクラウドサインなどが挙げられますが、これは「電子契約」といって、インターネット上で契約内容を確認(クリック)すると、後で「違った」「知らない」などと言うことはできませんという一つの証明手段になります。

2) 注文書・注文請書

次は、反対に古くからあるものとして、注文書と注文請書が考えられます。これも業界によっては昔からありますし、今も普通に使われております。例えば、「○○を○○個お願いします」といった注文書をFAXで送って、注文請書がそれに対してFAXされてきたら、もうそれで契約は成立します。そして、商品が納入されるわけです。そういった形の注文書と注文請書。これも基本的にはFAXなどを介することで、よその会社から勝手に送られてくるということはちょっと考えにくいです。また、注文書や注文請書の場合、印鑑やサインと併用することもできますので、今もなお利用価値は高いと思います。

3) 電子メール

最後は、電子メールです。先ほどのFAXと言うとちょっと古い感じもしますが、電子メールでも同じような事はできます。添付ファイルを使うこともできますし、あるいは内容の確定のためには内容を本文でバーっと打って詰めていって、最後にお互いに責任者(決済権のある人)からメールで「この内容で OK ですね」「そうですね、これでいきましょう」というやりとりを一つかませば、それでもう後で「この内容は違う」「契約してない」というトラブルのリスクは回避できます。

このように、企業間取引においても、印鑑・契約書なしに契約することが可能です。そして、電子メールのやり取りを中心に、WEBメール(インターネットブラウザを利用したメールの送受信)などを活用すれば、自宅から(テレワーク体制)でも内容を詰めて行って契約を成立させることも可能です。

6 おわりに

以上、今回は「契約の成立」というテーマを解説致しました。このテーマは古典的なものですが、現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によりテレワークの企業もあるかと思いますし、今後、感染症対策の必要がなくなってもテレワークを継続・活用していきたいという企業もあるかと思います。そのため、「契約書からの開放」「印鑑からの解放」については、この機会にぜひチャレンジしていただければと思います。

また、今回ご説明しました「契約自由の原則」については、大原則であるものの例外もございます。例えば、遺言(いごん・ゆいごん)については、口頭では成立しません。遺言というものは、言葉を残した人が亡くなった後に問題になるものですので、もうその人がいない中で「こんなこと言ってました」「こんな風に聞きました」などという根拠は通用させられない。そういう理由から、遺言については様式主義が採られており、口頭ではなく書面に残すことが求められていますし、また、書面についても偽造がされないような厳格な様式が求められております。

そういった意味で、今後しっかりと契約の内容について考えていきたいという方や、この解説を見て素朴に疑問がある方や、あるいは何か他にもお困りごとがある方などおられましたら、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。

著者プロフィール


田代隼一郎 弁護士

おくだ総合法律事務所
平成24年弁護士登録
福岡県弁護士会所属
熊本県熊本市出身
真和高校卒
九州大学法学部卒
大阪大学大学院高等司法研究科修了

契約書作成