解説 2020年の民法改正 第3回 時効に関する規定の整備(後編)

こんにちは。弁護士の田代です。 シリーズとして説明しております「2020年の民法改正」について、 今日は、第3回「時効に関する規定の整備」の後編を解説いたします。

2020年の民法改正の内容は様々ですが、大きくポイントを絞ると、上の画像に表示されている5点に絞ることができます。これらが重要な改正点です。本シリーズでは、この5点について順番に解説しておりまして、前回の動画と今回の動画では、①の「時効に関する規定の整理」というテーマについて解説しております。

そして、この「時効に関する規定の整備」の改正内容については、大きくいうと上の画像の4点に絞ることができます。そして、第1の点と第2の点は前回の動画で解説しておりますので、前回の動画をご覧になってない方はまずはそちらから観ていただいたら良いのではないかと思います。

前回の動画
解説 2020年の民法改正 ~ 第2回 時効に関する規定の整備(前編)

そして、今回の動画では、この「時効に関する規定の整備」の後編として、「⑶ 時効の中断・停止概念の整理」と「⑷ その他の小さな改正点」について解説いたします。

① 時効の中断・停止を更新・完成猶予に区別

「時効の中断・停止概念の整理」というのは、これまでは、時効の中断・時効の停止という言葉があったのですが、それが、時効の更新・時効の完成猶予という2つの枠組みに区別されるようになりました。

今後は、時効の中断・時効の停止という言葉はなくなります。代わりに、時効の更新・時効の完成猶予という言葉が新たに法律に規定されます。

② 協議を行う合意による時効の完成猶予を新設

そして次に「協議を行う合意」によって時効の完成猶予ができるという制度が新たに設けられました。

③ 天災等による時効の完成猶予期間を3か月に伸長

「天災による時効の完成猶予」は、元々、天災などによって時効が一時停止される、時効の完成がしばらく停止される制度があったのですが、この期間が3ヶ月に伸びることになりました。

「時効の中断・停止概念の整理」ということで、これまでの制度について説明しますと、 元々は時効の中断(上記画像1番)とか時効の停止(上記画像2番)という言葉が使われておりました。そして、時効の中断というのは、概ねそれまでに進行してきた時効期間がその効力を失うという意味でして、他方、時効の停止というのは、客観的な事情によって時効の完成が一時猶予される制度とに大まかに区別できていました。

イメージとしましては、時効の停止は音楽プレーヤーや古いDVDプレイヤーなどの一時停止です。一時停止ボタンを押すとそこで止まって、もう一度再生ボタンを押すとその瞬間からまたスタートされる。一時停止ボタン、これが時効の停止のイメージです。

他方で時効の中断。これも音楽プレイヤーや古いDVDプレーヤーなどに例えると、停止ボタンを押して再生ボタンを押すと、また最初から始まるイメージです。停止ボタンは時効の中断で、一時停止ボタンが時効の停止というイメージになります。上の画像でもこのイメージが分かるように、右の方に一時停止のマークと停止のマークをつけております。

次に、それぞれの具体例について。まず、時効が停止(一時停止)される例としては、先ほど申し上げました天災等があります。天災等の時には、ちょっと時効だなんだとは言えないじゃないかと、こんな中で言うことはできないので、それが収まるまでは待ちましょうという趣旨で、時効が停止(一時停止)がされます。あるいは、相続人が確定していない相続財産に関する時効なども、これも相続人が確定するまでは時効だなんだとは言えない話ですので一旦停止しておきましょうと、これらが時効の停止の具体例です。

他方で、時効の中断(確定的な停止)については、例えば、勝訴判決(裁判をして勝訴の判決まで得た場合)には、判決が確定した時からまた10年間というように新たに時効がスタートされます。ほかにも、債務者(債務を負う人=時効が完成したら時効を主張できる人)が「すみません、きちっと支払って行きます」と、そんな風に債務を承認した時には、また新たに時効がスタートするとされております。これらが時効の中断の具体例です。

このように、時効の停止という言葉なのに、その効果は一時停止になる。このイメージと言葉のズレがややこしさの第一です。ところが、さらにもう一つややこしい点が、「催告」という中間的な制度・曖昧な制度もあったことです。

この「催告」も、時効の中断の一種とされているのですが、その効果は便宜上時効の完成が一時猶予されるという制度です。

例えば、請求書を送る(裁判外での請求)をすると、このときには6か月間とりあえず時効が一旦ストップします。そして、6か月のうちにそのまま裁判をして勝訴判決がもらえれば、時効は中断します。ところが、6か月間たって何もしなければ、時効が完成してしまうという制度です。あるいは、裁判までしたものの、途中で勝訴判決まで行かずに訴訟が中途で終了(取り下げ・却下等)しました。このような場合にも一時停止の効果のみが認められる制度があります。これも時効の中断の一種とされていますが、この効果からするとどちらかというと時効の停止(上の図の2番目=一時停止)の方がしっくりきますが、時効の中断の一種に整理されていて非常に難解になっています。そこで、もう少し分かりやすく整理しましょうという経緯から、今回の改正がなされました。

その結果、新たに考え方が整備されて、次の2点になりました。
1点目が「時効の更新」で、2点目が「時効の完成猶予」です。この違いは何かというと、上の画像の右側を見ていただくと停止ボタンと一時停止ボタンがあるように、単なる一時停止(またそこからスタート)する制度が「完成猶予」ですね。これは、「時効の完成が猶予される」という言葉からもしっくりくるのではないかと思います。
この例として、訴えを提起して勝訴判決の確定には至っていないという例や、あるいは催告なども(これまでは時効の中断の一種に分類されていたところが)きちんと完成猶予の一つにされております。こういった例が挙げられます。
さらに、上の画面の一番右の天災等も、天災の間は一旦猶予(ストップ)しましょうという趣旨で、完成猶予の例の一つとして分かりやすいかなと思います。

他方で、上の画像の1点目の「時効の更新」は、停止ボタンのようにそれまで進行していた時効期間が効力を失って新たにまた一からスタートします。これは、先ほど申し上げたように勝訴判決が確定したり、債務者が債務を承認したり、そういった時には時効が更新(再び一から進行)することになります。この二つの概念に整理されました。

さらに補足しますと、時効の完成猶予の中の具体例で、「協議の合意」と「天災等」という制度についても少し整備がされたので、ここも説明します。

まず、「協議による時効の完成猶予」は、債権者(権利のある人)と債務者(義務を負う人=時効期間が経過すれば時効を主張できるようになる人)が協議をしてる間はとりあえず時効は一旦ストップしましょう(時効の完成を猶予させましょう)という風に、お互いの合意によって完成猶予ができるという制度ができました。これは、これまでになかったものが新たにできた制度です。

この「協議による時効の完成猶予」は、①一回の合意での猶予期間は最長1年という制限があります。他方で、②合意の繰り返しも可能となっております。つまり、1年間猶予しますとの合意をした後、この1年も過ぎてしまいそうだとなった場合には、もう1年合意する形で繰り返しができます。ただ、その期間も最長5年という風に制限がされております。最長5年というのは一番最初(本来の時効完成時点)から見て5年間に限られます。そういった中で協議の続行拒絶があれば、そこから6か月間で時効が完成します。
「協議による時効の完成猶予」はこういう制度です。これは、弁護士としては合理的な制度かと思いまして、例えば交通事故の被害者の代理人として保険会社と協議をしている中で、保険会社からも大きな争いはなく、金額の調整などについての話をしている。ところが、もう時効の完成が近づいてきた時に、時効を中断させるために、とりあえず訴えを提起しないといけなくなる場面もこれまではありました。そういったケースで、こういう合意での完成猶予という制度が活用できるのではないのかと思っております。

この完成猶予の合意書の具体例も紹介しておきますと、次のような合意書ですね。上の画像は2頁のうちの1頁目です。

まず、第1項(1 本件契約の内容)の欄に、契約の内容が書かれています。返済期限「令和3年3月31日」となっていますので、前回の動画で解説したように原則5年という時効期間を考えると、「令和8年3月末」で本来は時効が完成されます。そのような中で、この合意書は、令和8年3月20日に、完成を控えたところで完成猶予の合意をしましょうという経過で作られた書面の具体例です。

次に、第2項(2 協議)で、本合意の成立の日から1年が経過するまで、本件契約に基づく権利に関する協議を行うとされています。
そして、第3項(3 時効完成の猶予)の欄で、「甲及び乙は、本合意により、本件契約に基づく債権の消滅時効が本日から1年が経過するまで完成しないことを相互に確認する。」とされています。この猶予期間が1年間までに限られる点は、先程ご説明したとおりです。こういう合意書を甲と乙がそれぞれ署名・捺印をして作成するというイメージを持っていただければと思います。

最後に、時効の完成猶予の中で一つ説明した点が、天災等による完成猶予期間が伸びた点です。災害などによって手続上の障害がある時には、それが消滅した時から3か月間は時効の完成が猶予されることになりました。
このような制度は改正前からも存在しましたが、もともとは2週間とされていた猶予期間が今回の改正で3か月に延びました。これは、昨今の天候の変動(台風による被害が大きかったりあるいは地震などの被害)を踏まえると、2週間という期間はあまりに短い。そこで、せめて3か月に伸長されたと。この改正については、非常に理解しやすいと個人的には思っております。

以上、「時効に関する規定の整備」というテーマのうち、前編の⑴と⑵は前回の動画で説明しまして、いま、後編の⑶を説明いたしました。最後に「⑷ その他」を説明しますと、その他の改正点としては、どういう人が時効を主張できるのかという点について、債務者本人のほかにも保証人も主張できる点など、元々の制度が条文上明記された(具体例が示された)という非常に細かい点が改正されております。細かいので、この説明は一言でよいくらいです。

以上、今回の動画では「2020年の民法改正 第3回 時効に関する規定の整備~後編~」について解説しました。

次回は「法定利率を変動されさせる規定の新設」というテーマについてご説明します。次回の動画は一つの動画で一つのテーマを、つまり前編と後編に分けないで解説できると思います。こちらの方も是非興味のある方はご覧ください。

著者プロフィール


田代隼一郎 弁護士

おくだ総合法律事務所
平成24年弁護士登録
福岡県弁護士会所属
熊本県熊本市出身
真和高校卒
九州大学法学部卒
大阪大学大学院高等司法研究科修了