コロナ-ハラスメントの事後対策 社内調査等の末、「パワハラ・コロハラがあった」と結論付ける場合の会社の対応「パワハラ防止法」に見るコロナ-ハラスメント対策⑤




 

1 はじめに―前回のおさらい

この動画は、「『パワハラ防止法』に見るコロナ-ハラスメント対策」というタイトルでお送りしているシリーズの5本目です。
シリーズの中でこの動画を最初にご覧になっている方は、よろしければ1本目の動画からご参照いただけたら嬉しいです。

前回の動画では、
■ハラスメント相談を受け、実際に社内調査を行う際におさえるべき基本的な調査スキーム
ということで、裁判官の考え方に触れながら、次の4つのポイントについてご紹介いたしました。
① 両当事者から言い分を聞くこと
② 客観的証拠を確認すること
③ 第三者からも話を聞くこと
④ 総合考慮

今回は、
■社内調査等の末、実際に会社が「パワハラ・コロハラがあった」と結論付けた場合、どのような対応を取り得るのか
という点について解説したいと思います。

~中小企業経営者の方へ~
パワハラ防止法は、令和元年5月に成立し、令和2年6月から大企業が、令和4年4月から中小企業が、その適用を受けることになります。
そのため、特に中小企業の経営・管理を行う立場の方におかれては、今後パワハラ防止法の適用対象となるにあたり、予習としてもご覧いただけたらと考えています。

2 気をつけなければいけないこと――会社のリスク

 


ハラスメント案件における会社の対応の難しいところは、下図のとおり、会社が加害者・被害者の間に立たされ、いずれとも敵対し得る関係が生じるところにあります。

具体的には、会社と加害者との間には、会社が下した処分・対応について「不当」「無効とする衝突が生まれるおそれがありますし、一方で、会社と被害者との間には、会社の対応や加害者に対する処分について「不十分」「不適切」とする衝突が生まれるおそれがあります。これらは、いずれも民事上の損害賠償請求に発展する危険性すらはらむものです。
要するに、会社としては、対応しなくても、しすぎても、問題となり得るのです。

3 では、どのように対応すればいい?

以下、法律や判例等をふまえ、会社が対応する際のルールをご紹介いたします。

⑴ 就業規則の内容を確認

ルール1:懲戒処分は、就業規則で規定された懲戒事由に該当しない限り、行うことができません。
まずは、自社が取り得る選択肢を把握すべく、就業規則を確認しましょう。
一般的に、会社の就業規則には「懲戒処分」に関する規定があり、どのような場合に、どのような処分を行えるかが定められています。「戒告」や「減給」から「懲戒解雇」まで、様々な種類があります。

⑵ 処分内容の検討

ルール2:懲戒処分は、問題となる行動(本件ではパワハラ・コロハラ)の内容と比較して、重すぎてはいけません(処分の相当性)。
下記のポイントを確認のうえ、重大⇔軽微の程度を判断するとよいかと思います。
・ハラスメント行為の内容・態様/回数・頻度/期間/常習性
・被害者の数
・被害の程度(たとえば、被害者に精神上・健康上の問題が生じたか)
・ハラスメント行為後の反省の有無
・加害者の過去の懲戒処分歴
・自社における過去の懲戒事例

⑶ 手続の検討

ルール3:懲戒処分に至るまでの手続は、適正なものでなければなりません(手続の相当性)。
懲戒処分を行う場合は、本人に弁明の機会を与えたり、中立的な懲戒委員会等を開催するなどして、会社側の一方的な制裁とならないようにしましょう。就業規則には、このような手続そのものも規定している場合がありますので、ご確認ください。

⑷ 他にとり得る選択肢の検討――任意的対応の検討

処分内容・手続の流れの見通しが立ったら、事案の解決のために、他に手段が無いかを改めて検討すると安心です。
たとえば、両当事者を同じ部署から引き離せばまずは問題ない、というような場合には、加害者(あるいは被害者)の配置転換(異動)を促すことも考えられます。
ただし、就業規則にない処分を行うことは許されないので、あくまで当事者の任意に基づく対応でなければなりません。たとえば相手から同意書(例:「異動に異議なく同意します」という内容の書面)を取り付けておくとよいかと思います。

4 まとめ/おわりに

以上です。

今回の動画では、
■社内調査等の末、実際に会社が「パワハラ・コロハラがあった」と結論付けた場合、どのような対応を取り得るのか
について、法律・判例等をふまえたルールをご紹介しました。

今回のポイントは、以下のとおりです。
①ハラスメント申告は、対応しない場合も、しすぎた場合も、問題となり得る
②就業規則にない懲戒処分は行えない
③就業規則にある処分であっても、処分内容・手続には相当性が必要
④就業規則にない対応を行う場合、相手方の任意に基づく対応でなければならない

このシリーズは、今回で最終回となります。これまでに、パワハラ防止法の概要や、コロナハラスメントもパワハラ防止法の適用対象となること、ハラスメントに関する事前・事後対策などについてご紹介してまいりました。
具体的にどのような対応・手続を取り得るかは、会社それぞれの空気感なり慣習なりにもよるかと思いますが、シリーズを通して少しでも参考になりましたら幸いです。

ありがとうございました。