顔写真の法律問題~肖像権・パブリシティ権・プライバシー権




 

こんにちは弁護士の田代です。
今回の動画では、顔写真の法律問題について解説いたします。
顔写真を、例えばインターネットに載せる・撮影をする。そういったことについて、皆様身近になっていると思います。そのため、今回そういったことによってどういった法的な問題があるのかについて、それぞれの権利ごとに解説していきます。よろしくお願いします。

顔写真に伴う権利

顔写真に伴う権利としては、この1・2・3・4などが考えられます。順番に見ていきます。

まず肖像権。次にパブリシティ権。 さらにプライバシー権。 最後にそれ以外の権利として例えば名誉だとか著作権。こういった権利が関係してきます。
スライドの右側に載っているのは、権利がどういう権利なのかについて書いておりますが、これについてはそれぞれの権利ごとに見ていきます。そして右下の絵ですね。それぞれの権利の侵害になるかならないかを表しています。いくつもの権利を侵害してしまう場合があったり、一つの権利だけの問題になる場合とか様々な場合がございますが、このような形で絡まり合っているというイメージを持ってください。

1 肖像権

まず肖像権について。肖像権とは何かと言うと、肖像、顔だとか姿だとかそういったものです。それを撮影したり公表したり、そういったことをさせない権利になります。

(1)個人を特定されるものか

この「肖像権を侵害する」という法的な問題があるかどうかを見ていく上では、まず例えば写真を撮ります。その写真が個人が特定されるものなのかどうかという点が問題になります。例えばものすごく小さくぼやけている写真だと、そもそも誰が写っているのかわからない。あるいは後ろ姿だけだったり、そういった時には肖像権は問題になりません。

(2)同意はないか

次に個人を特定できるとして、同意があるかないかですね。同意があれば肖像権の問題はございません。写真撮影していいよ。公表していいよ。そういう話であれば問題ございません。

(3)対象者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えるか

個人が特定される写真で、同意がなく撮影した場合、あるいは公表する場合、この時にはいつも違法になるかというと、そんなことはございません。皆様もよくいろいろなところで写真を撮られていると思います。どういった時が違法になるかについては、この「対象者の被る精神的な苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えるか」どうかという点が大事になってきます。
この「社会通念上受忍すべき限度」。これを”受忍限度”と言うんですけれども、受忍限度を超えている、これぐらいは我慢しましょうよということです。我慢しましょうよの範囲内であれば違法ではございません。ただこれぐらいは我慢しましょうよと言えないようなものについては、違法になるといった基準になります。このぐらいは我慢しましょうよというのは非常に難しい判断ですよね。なのでこれについて、こういった点が目安に判断されるという基準がございます。

例えば撮影対象者の社会的な地位だとか、あるいは対象者の活動内容、あるいは撮影の場所。こういった点です。一つのキーワードとしては「公(おおやけ)」です。
例えば対象者の社会的地位が公共に関する公的な地位がある人だったら、この我慢しましょうの範囲は広くなります。なので違法になりにくい。あるいは活動内容が公的な活動であること。あるいは撮影の場所が公共の場所であるとき。こういった時には我慢しましょうよの範囲が広くなる。あと撮影の態様も堂々と公に撮影してるのか、こっそり隠し撮りをしてるのか、こういった点で問題が変わってきます。あとは目的。これも公益目的、公共の目的があるのかどうか、それに関連してそもそも撮影をする必要性があるのか、こういった要素で違法かどうかが判断されます。

例えば私が写真を撮られる時に、私が何か弁護士の活動としてデモ活動に参加していました。その時に路上でデモ活動している姿を、その活動を紹介するため撮影されました。そこに私の顔がバッチリ写っています。これは基本的には問題はないと思います。仕事に関係する内容で、デモの活動が公共の場所で普通に撮影される。こういったケースだとこの肖像権の問題は通常は出ません。

他方で、私が例えば家でゴロゴロしてる写真を、窓からカメラを差し入れて撮影されたりだとかいった話になると今度は変わってきます。 こういった点で、肖像権の問題が出てきます。

あとちょっと特殊なケースとして、例えば私が家族と一緒に動物園に行っているところの写真を撮られる。これは普通によくあるのがスナップ写真ですよね。公園とか、野球のスタジアムで応援しているときに、野球の放送の中で映り込むこともあると思います。あと公園だとか動物園とかでは、皆様色々家族写真を撮る中に写り込むことがあると思いますが、こういった点についても特に肖像権の問題にはなりにくいですけれども、例えばその公園での私の写真ですね。スナップ写真自体は問題なくても、例えばこの田代っていう人間はゴリラのような人間だ。人としての品性がないんだ。そういう紹介をするために、私の公園や動物園でのスナップ写真の周りにいっぱいゴリラの写真を並べて、それで掲載する、公表するといった時には、やはり社会通念上受忍できない、我慢できないということで肖像権の侵害になることもあります。こういった肖像権の侵害というのは、我慢できるかできないかという判断になりますので、ふわっとした問題になるという点はご理解ください。

2 パブリシティ権

次に、パブリシティ権についてです。これについては非常に明確な権利だと思います。

(1) 対象者の氏名・肖像等に顧客誘引力があるか

どんな権利なのかというと、氏名・肖像等による顧客誘引力、お客さんを呼び寄せる力、これを利用する権利だということで、このパブリシティ権、これはそもそも私とかにはありません。
顧客誘引力がある人とは、要は広告などに出てくる芸能人などが多いですよね。そういった人についてはパブリシティ権が問題になります。

(2) 顧客誘引力を利用しているか

そういった人についても、例えばうちの事務所のCMに芸能人の写真を引っ張ってきて載せてしまうといったことをすると、芸能人の顧客誘引力を利用してるということで、その人のパブリシティ権の侵害になります。これは非常にわかりやすい。

(3) 顧客誘引力を利用していなくても・・・

ただ、他方で注意しないといけないのは、顧客誘引力を利用していないこと。つまり事務所のCMに利用する訳ではない。ただ単に芸能人の写真をどこかにアップロードします。あるいは何かに使います。それはパブリシティ権の侵害にはならないとしても、いろいろな問題があります。
まずは著作権ですね。芸能人の写真って普通そこら辺の個人が撮影なんかできないですね。普通はプロのカメラマンが撮った写真を利用するでしょうから、そういうものをインターネットにあげたりすると著作権の侵害になります。
あるいは芸能人の方についても、どこかで写真におさめることができたとしても、その方にも肖像権はありますので、肖像権の侵害、あるいはプライバシー権、あるいは名誉の毀損、そういったこともございます。この点、パブリシティ権については、分かりやすい権利であることと、それ以外にも問題となる権利侵害が出てくる。この点にご注意ください。

3 プライバシー権

次にプライバシー権です。これはどんな権利なのかというと、私生活を公開されない権利ということになります。まず私生活ということで、それがプライバシーですよね。

(1) プライバシー情報

プライバシーの情報とはどんな情報なのかというと、この三つのどれも満たしている必要があります。

① 私生活上の事実または事実と受け取られる可能性がある情報

一つが、私生活上の事実または私生活上の事実と受け取られる可能性がある情報。例えば私の仕事上の話だとか、田代がこういう事件をやっているとか、そういうのは プライバシー情報にはなりません。

② 公開されていない情報

あと、公開されていない情報。私生活上の情報であっても、例えば私の出身大学だとかそういったものはホームページに出してますので、そういったものは公開している情報なのでプライバシー情報にはなりません。公開されていないというのも条件です。
③通常は公開を欲しない情報

さらに、通常は公開を欲しない情報。例えば好きな食べ物嫌いな食べ物。こういったものはプライバシー情報にはなかなかなりません。普通、別に公開を欲しないっていうわけでもないかなと。ただ例えばこういう持病があるだとか病気だとかですよね。そういった情報については、通常は公開を欲しないんじゃないかということで、プライバシー情報になりやすい。そういったところにご注意ください。

(2) 公表されない法的利益 vs 公表する理由

プライバシー情報にあたるかどうかについての条件を解説しましたが、プライバシー情報に当たるとして、どういう時にプライバシーの侵害になるのかというとこれも難しい問題がございまして、公表されない法的な利益と公表する理由、必要性ですよね、目的だとか。 こういったものを比較して、どちらを優先するか、といった考え方が取られることが比較的多いかなと思います。
例えばスポーツ選手について、年収とかは比較的出やすいのかな。これは公表されやすい。年収というか、どういう契約を結んだとかですよね。他方で、そのスポーツ選手の個人の電話番号だとか住所、こういうのは明らかに公表されない法的利益が多く、また公表する理由もないということで、プライバシー侵害になりやすいということになります。年収であれば公表していいというわけでもないのでこの点はご注意ください。

このように、肖像権、パブリシティ権、プライバシー権とその他ですね。その他についても、パブリシティ権の中などでお話させていただきました。
一応確認しますと、これらについては一つの事で一つを侵害するわけじゃなくて、重なりあっているので、いくつも侵害することもあるという点にご注意ください。
あともう一点ですね。ここの図を見ていただくと、青が肖像権、赤がパブリシティ権、黄色がプライバシー権、緑がその他ですが、赤のパブリシティ権って範囲が分かりやすいんですよね。だけどこの肖像権だとかプライバシー権だとかはふわっとしてるという点で境界が分かりにくいというのがございますので、やはり写真の掲載については比較的慎重に、個人が特定できる時は少しモザイクをかけるだとか、少し慎重に対応された方がいいんじゃないかなというのが私の印象です。

以上、今回の動画では、顔写真に伴う権利を解説しました。
失礼します。

著者プロフィール


田代隼一郎 弁護士

おくだ総合法律事務所
平成24年弁護士登録
福岡県弁護士会所属
熊本県熊本市出身
真和高校卒
九州大学法学部卒
大阪大学大学院高等司法研究科修了

法律豆知識

前の記事

契約書作成のすゝめ