Q.建設業を営む会社の取締役が市役所の職員を会社のお金で接待したところ、贈賄罪で起訴されて執行猶予付きの有罪となりました。取締役は不況で受注が減ったので会社のためにも何とか仕事をとろうとしたらしいのですが、株主として取締役に会社の損害を賠償してもらうことはできないでしょうか?

A.「取締役」は、会社に対して、任務を怠ったことによって生じた損害を賠償する責任を負います。
「取締役」の任務には、刑法など公益を保護する目的の法令を遵守することも含まれますから、「取締役」が刑法で禁止されている贈賄行為を行えば、法令違反にあたり、任務を怠ったといえるので、損害賠償責任を負います。
そして、取締役が会社のお金を贈賄に用いた場合、そのお金は返還を求めることができませんから、少なくとも賄賂として供与した金額は会社の損害となります。
それ以外にも、公共工事の指名停止などの処分を受けたような場合には、これに関する損害も賠償の対象となりうる場合があります。
「取締役」の会社に対する損害賠償を追及するには、「取締役」が任務を怠ったといえるのか、損害がいくらで、因果関係があるのか、責任の軽減や免除は認められないかなど、難しい問題が多くありますから、企業法務を専門とする弁護士にご相談ください。

1 取締役と会社との関係

「株主」は、「株式会社」の所有者ですが、必ずしも経営に詳しくありません。そこで、「株主」の意思決定をする機関である「株主総会」が経営の専門家たる「取締役」を選任し、「取締役」がある程度の裁量の範囲内で会社の業務を執行します。
「取締役」は、会社から経営を委任されているといえますから、会社に対して、善良な管理者としての注意をもって事務を処理する義務(善管注意義務)を負います。「取締役」は、善管注意義務に違反すれば、任務を怠ったといえますから、会社に対して、任務を怠ったことによって生じた損害を賠償する責任を負います。
しかし、経営上の専門的判断に委ねられている事項については、決定の過程・内容に著しく不合理な点がない限り、「取締役」としての善管注意義務に違反するものではないとされています。
したがって、株式会社では、「取締役」が善管注意義務に違反するような著しく不合理な経営をしない限り、取締役個人が会社から責任を問われることはありません。

2 取締役が遵守しなければならない法令

「取締役」の任務には、法令を遵守することも含まれます。
そして、会社が企業活動を行うにあたって法令を遵守することは当然ですし、「取締役」が会社の業務を決定して執行しますから、「取締役」が遵守しなければならない法令は、会社や株主の権利保護のための法令だけでなく、刑法や独占禁止法といった公益を保護する目的の法令も含まれます。
そして、「取締役」が法令に違反することは、経営についての裁量の範囲とはいえません。
したがって、「取締役」が刑法で禁止されている贈賄を行えば、会社のための営業活動の一環であるとの意識の下に行われたものであっても、法令違反にあたり、任務を怠ったといえるので、損害賠償責任を負います。

3 損害額の認定

「取締役」が会社に対して損害賠償義務を負う場合、損害額がいくらなのか、損害額と任務を怠ったこととの因果関係があるのかについて確定することも難しい問題です。
例えば、会社のお金を贈賄に用いた場合、そのお金は返還を求めることができませんから、賄賂として供与した金額が会社の損害となります。仮に、贈賄によって受注が増えて会社が得た利益があったとしても、その利益と会社の損害とを相殺することはできず、取締役は損害の全額を支払う義務を負います。
また、贈賄によって公共工事の指名停止などの処分を受けたような場合には、これによる損害も賠償の対象となりえますが、その額の算定等には難しい問題があります。
このように、「取締役」の会社に対する損害賠償を追及するには、「取締役」が任務を怠ったといえるのか、損害がいくらで、因果関係があるのか、責任の軽減や免除は認められないかなど、難しい問題が多くありますから、企業法務を専門とする当事務所にご相談ください。